ガイドのつぶやき - 鹿児島・屋久島からThe Diving Junky Magazine

生物多様性 ─ 多ければ多いほどいい!ってワケじゃない

国際生物多様性年に入って、様々な環境NGOや環境教育団体、各企業などで一般市民向けに「生物多様性とはなんぞや?」という事で、この「生物多様性」という言葉を分かりやすく説明しようという試みが行われている。

1992年の「生物の多様性に関する条約」で採用された定義「すべての生物の間の変異性をいうものとし、種内の多様性、種間の多様性及び生態系の多様性を含む」を踏まえて、概ね次のような感じで生物多様性が説明される事が多いのではないだろうか?

「様々な“環境(生態系)”で、様々な“種類(種)”の生き物が、様々な“個性(遺伝子)”を持ち生きていて、みんなつながりあって地球という生命を維持している状態」

だけど、ちょっと待て。。。

果たして“種”や“遺伝子”や“生態系”は多ければ多いほど良いというものなのだろうか?

砂泥環境を好むヤツシハゼの仲間が激増(撮影地/屋久島)

僕のホームグラウンドとも言える「一湊タンク下」というポイントは-12mくらいまで下りると真っ白い砂地となる。

そこは僕が屋久島に来た当時(たった7年前)、さらさらの綺麗な砂地だった。

夏の明るい陽を浴びた白い砂地は美しいのだが、そこで見られる生き物はダテハゼ、ミナミダテハゼ、ホシテンスの幼魚、トゲダルマガレイぐらいのもので、全体的に魚影は濃くは無かった。

ところが、この砂地は年々、埃っぽくなっていく。

泥化が進んでいたのだ。

今ではちょっと手を着くとボワァと砂泥が舞い上がり、治まるまではしばらく何も見えなくなる。

しかし、この砂地が砂泥底になってからというもの、ここで見られる魚の種数が極端に増えた。泥地を好む魚が沢山見られるようになってきたのだ。

これまでこの砂地では見られなかったシマオリハゼやクサハゼ、そして様々なヤツシハゼの仲間、カスリハゼなど泥地でしか見られなかったハゼが普通に見られるようになってきたのだ。

新たな生態系が生まれ、一気に種の多様性が増したのだ。

環境が砂地なので、どうしてもハゼばかりになってしまうが、他にも貝類など軟体動物の仲間なども泥地に適した種類に変わりつつあり、その種数も増えているような気がする。最近になってインドアカタチまでもが出現した時にはちょっとビックリした。

この砂地が泥化していく理由は明確には分かっていないのだが、多分、港とこのポイント(外海)を隔てる隣接する防波堤が原因ではないかと考えている。

この堤防は30-40年ぐらい前から長い年月をかけて少しづつ延長されているものだ。

原因はともかくとして、計らずも生物の多様性が増しているわけなのだが、これで本当に良いのだろうか?

この泥は砂地の生物多様性には貢献したが、その砂地から少し上がったところにあるオオハナガタサンゴの群体には負の影響を与えている。

直接サンゴの上に乗っかった泥は、大きな時化が来ない限りそこに居座り、次々とサンゴを死滅させているのだ。

僕が屋久島に来た頃はとても綺麗だったオオハナガタサンゴ群体も今ではかなりの荒廃ぶりだ。

そのサンゴ周辺の魚に関しては今のところ、その魚類層や種の構成に大きな変化はないが、これもオオハナガタサンゴ群体がすべて死滅するような事になればどうなるか分からない。

とうとうアカタチの仲間までもが登場。。。(撮影地/屋久島)

泥環境というものはある意味、人工的な開発による海環境の成れの果て。

こうして考えていくとさすがにこれを良しと思った人はいないだろうが、生物多様性を説明するとき、こうした観点に触れられることなく、ただ「多いことは良いことだ」という流れだけで「生物多様性」を説明しようとすると、勘違いする人が必ず出てくる。

「生物多様性」という考えを周知させるのが目的であるならば、その言葉の字面を説明するのではなく、それが意味するところ、を理解させる事が重要なのではないだろうか?

一部の場所だけで見ると多様性が増しているように見えても、ポイント全体、屋久島全体、日本全体、地球全体というように見る範囲を広くすればするほど全体としては多様性が増しているとは限らない。

また一定の短い期間(今)だけで見ると多様性を増しているように見えても、時間軸をさらに長くして、将来的な状況も加味して見ていくと多様性は決して増しているとは限らないのだ。

当たり前のことのように思うかもしれないが、案外こうした視点が欠如している環境政策や施策は多い。

「生物多様性」の目指すところは、ずばり“バランスの取れた生態系”だ。

字面に引きずられて“多様”である事は良いことだ、多い事は良いことだ、とか思われがちだが、決してそういう意味ではない。

僕は「生物多様性」は結局のところ「“いい感じで”つながりのある生態系が保たれた状態」と同義になると思っている。

この「いい感じ」が重要だ。(笑)

原崎
原崎 森
(はらざき・しげる)

1970年8月26日生まれ
山梨県出身

八丈島から屋久島へ。。。

巨木と苔の深〜い森を抱える島で、あえて海に潜る。

鹿児島県・屋久島
屋久島ダイビングサービス もりとうみ

〒891-4205
鹿児島県熊毛郡屋久島町
宮之浦2473-294
Tel:0997-49-1260

http://mori-umi.net/
http://harazaki.net/

携帯サイト【QRコード】
QRコード

屋久島ダイビングサービス もりとうみ

バックナンバー
関連キーワード

BabyFinders7OリングPOL-058PT-059RXWRECKWWL-1はえものアオサハギアオリイカアカオビハナダイアカカマスアカグツアカゲカムリアカボシウミウシアケボノハゼアサヒハナゴイアザハタアデイトベラアミメハギアメフラシアヤニシキイサキイシガキカエルウオイソギンチャクイソバナイソマグロイトヒキハゼイトヒキベライナダイバラタツイボヤギミノウミウシイルカイレズミフエダイイロカエルアンコウイワシウシマンボウウチワザメウデナガウンバチウデフリツノザヤウミウシウミウウミウシウミカラマツウミヒルモウルトラマンオオウミウマオオミナベトサカオオメカマスオオモンカエルアンコウオキノスジエビオニヒラアジオパールミノウミウシオヤビッチャオヨギベニハゼオルトマンワラエビカイメンカサゴカシワハナダイカジメカスミチョウチョウウオカマスカンザシスズメダイカンパチカンムリブダイカンムリベラガイコツパンダガイコツパンダホヤガラスハゼガンガゼキイボキヌハダウミウシキザクラハゼキシマハナダイキジハタキツネベラキハッソクキビナゴキミオコゼキリンゴンべキリンミノキンギョハナダイギンガメアジクジャクケヤリクダゴンベクマドリカエルアンコウクマノミクラゲクロキンチャクダイクロホシイシモチグルクングレイリーフシャークゲッコウスズメダイコバンザメゴシキエビゴマフビロードウミウシゴルゴニアンシュリンプゴンズイゴールデン・ロッドサクラダイサビハゼサンゴザトウクジラシコンハタタテハゼシモフリタナバタウオシャチブリショウジンガニシラスシリテンスズメダイシロアザミヤギジンベエザメスケロクウミタケハゼスジキツネベラスジハナダイスナイロクラゲスベスベマンジュウガニセイタカアワダチソウセダカギンポセトリュウグウウミウシセホシサンカクハゼセボシウミタケハゼセンカエルウオゼブラガニソフトコーラルソメイヨシノソメワケヤッコソラスズメダイタカサゴタカノハダイタカベタキベラタコクラゲタコベラタテジマキンチャクダイタテジマヤッコタテスジハタタマギンポダテハゼダンゴウオチュウコシオリエビチリメンウミウシツノダシツノメヤドリエビテヅルモヅルエビテングダイトゲトサカトビヌメリナガサキニシキニナナガヒカリボヤナガレヒキガエルナノハナスズメダイナンヨウイボヤギナンヨウツバメウオナンヨウマンタニザダイニシキウミウシニシキオオメワラスボニシキフウライウオニシキヤッコニジギンポニセハクセンミノウミウシニホンイモリニラミアマダイニラミハナダイネッタイミノカサゴハシナガウバウオハタタテギンポハタタテハゼハチジョウタツハナゴイハナダイハナヤギウミヒドラハマグリハマチバラナガハナダイパラコードヒメエダミドリイシヒメテグリヒメホウキムシヒレナガネジリンボウヒレボシミノカサゴビゼンクラゲピグミーシーホースフィリピンクロミスフクロノリフタスジリュウキュウスズメダイフトスジイレズミハゼフリソデエビフロートブラックウォーターダイブブラックフィンバラクーダブラックマンタブリプランクトンベニウミトサカベニゴマリュウグウウミウシベニマツカサベニワモンヤドカリペアホホスジタルミホムラチュウコシオリエビホヤホンカクレエビホンダワラボロカサゴマダイマダコマダラタルミマダラハナダイマツカサウオマニュアルモードマメダワラマルハナシャコマンタマンボウミカヅキツバメウオミギマキミジンベニハゼミゾレウミウシミッドナイトダイブミノカサゴミヤビチュウコシオリエビムレハタタテダイメガネゴンベメギスSPモンガラカワハギモンスズメダイモンツキカエルウオヤイトハタヤセアマダイユビナガワモンヤドカリユリタツノコリュウキュウキッカサンゴロウソクギンポロープワクロ一期一会交雑種侵略的外来種内部波円周魚眼写真展卵保育台風婚姻色季節来遊魚孵化対角魚眼幼魚放散虫沈船浮遊系海牛海牛杯深海魚渦巻き状灯台生態行動産卵白化胞子嚢軽石魚眼レンズ

生物多様性 ─ 多ければ多いほどいい!ってワケじゃない < 鹿児島・屋久島から < トップ