茫然自失
梅雨前の晴れたある日、「恩納ヘビ」が興奮色を出してメスにアピールしている場面に遭遇した。
3m程の範囲で、5匹のオスが、2匹のメスに対して「俺のほうが俺のほうがー!」と言わんばかりにヒレを広げてバタバタと求愛合戦を繰り返していた。
小一時間程観察したが、恋が実ることはなく大して進展もないまま眺めていると・・・
アピールに必死な「恩納ヘビ」をしり目にゴイシギンポがせっせと巣穴の掃除をしているのが目に留まった。
巣穴に溜まった砂を口に含み外へ「ブハっ!!」っと吐き出す。この繰り返しだ。
巣穴の周りに溜まった砂の具合を見ると、よっぽど掃除していなかったのか、新居なのか、と想像してみる。
なんにせよ、かなり頑張っていることは明確だ。
顔は、力んで紅潮しているように見えてきたし、首筋の赤いラインなんて、必死さのあまり浮き出た血管のようにも見える。
ギンポの仲間特有のおとぼけ顔がなんとも笑えるのだが、頑張っている相手に対して失礼なのでここは、ぐっとその感情を堪える。
「それにしても、これだけ掃除したらそろそろバッチリ綺麗なんじゃないんかなぁ。」などと考えながら、観察していたのだが、そのうちに、掃除がなかなか終わらない理由が見えてきた。
「ブハっ!」っと吐き出した砂は緩いうねりに乗ってギンポの顔面に降り注ぐ。
少量の砂がパラパラと巣穴の中に舞い戻っている。
逆のうねりに合わせて砂を吐き出せば良いのだけどそのタイミングまでは考えていないようだ。
まずい・・・。
ますます笑えてきた・・・。
カメラを持つ手が震える。ピントが合わない。感情を押し殺しながらの撮影は困難を極めた。
しばらく笑いを堪えて見ていると・・・
「あ“ーーーーーー!」
無情に降り注ぐ白い雨の中、立ち尽くす彼の悲痛な叫び声が、僕にははっきりと聞こえた。
そして・・・
茫然自失である。
最高の表情である。
僕はこの瞬間、溜まっていた笑いを「ブハっ!」っと吐き出した。
ーーーーーーーーーーーーーー
海の中にも喜怒哀楽が溢れています。ほんの少しだけ「妄想」と「想像」というスパイスを加えると今よりもっと海が楽しくなるかもしれません。
さて、GWです。
海の住人達の生活をこっそり覗いて沢山のドラマに会いに行きましょう。
久米島ダイブエスティバンより奇数月担当の田中伸でした。
" 茫然自失 " へのコメント
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中村和子: 2015年5月2日 10:06 AM
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田中伸: 2015年5月9日 6:11 PM
中村和子様
コメントありがとうございます。
なんてことないありふれた場面でも
気持ちがホッコリするような時とても嬉しくなります。今後もそんな場面にたくさん出会えるように
海と接していきたいと思います。 -
大垣 遥: 2015年5月10日 11:12 AM
お久しぶりですがっちゃんです(^○^)
ゴイシギンポ爆笑!元気もらいましたw
今年もネイチャーしに行きますのでよろしくお願いします!! -
田中伸: 2015年7月9日 5:39 PM
がっちゃんこんにちは!
コメントありがとうございます(^^)
こちらこそヨロシクです~
今年もLet’sネイチャー(笑)
田中 伸(たなか・しん)
1982年5月20生まれ
島根県西部の山奥出身
山河に囲まれた環境に生まれ自然への好奇心は幼少期に確立されたものと思われる。学生時代に出会った沖縄の海に魅了され勢いでダイビングの世界へ飛び込む。都会から海へと通う生活を続けていたがガイドの目線でもっと海を見つめたいという好奇心から勢いで久米島へ。沖縄の太陽光と、「すべてはこの一本の為に」の精神を吸収しながら、日々精進で御座います!!
沖縄・久米島
DIVE ESTIVANT
〒901-3108
沖縄県島尻郡久米島町比嘉160-69
Tel:098-985-7150
Fax:098-985-7151
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一か所でこれだけ見ているといろんなことが解るのですね。
ツアーだとそれだけの時間が取れず、見れていないものが多いと感じています。
何時も楽しい・思いがけない・美しいブログ拝見しています。
今後も素敵なブログを待っています。