南国通信 楽園からのらくがき | 豪海倶楽部 |
物の豊かさ、心の豊かさ 僕は冬の間はペリリュー島にある「ペリリューステーション」でガイドをしていた。今の季節は風が南西になるのでこっちの店はクローズをして、コロールのデイドリームパラオ本店で仕事をしている。 次期は11月から営業開始だが、僕はこの8月からコロールに拠点が移ることになった。移るといっても、ペリリューから完全に離れてしまうのではなく月に10日くらいはこっちにも入るつもりだ。 そのペリリュー島へ3日前から戻ってきている。戻ってきているのか、来ているのか今の自分の立場だとどっちなのかよく分からないが、勤務地が変わるので少し荷物を取りに来たのだった。誰もいないので、数日間の滞在中自分自身で食事を考えなければならない。食パン買ってきて、缶詰のコンビーフとチーズをはさんでマヨネーズで味付けしたコンビーフサンドを作って食べた。なかなかいける。これをコーヒーやらペプシやらで流し込む。朝食兼昼食はこれで終わり。体を動かさないのであまり腹が減らないみたいなのでこれで十分。 夜はインスタントラーメンでも食べるつもりでいたら、大家さんのケイボーさんが毎日呼んでご飯を食べさせてくれた。ペリリューに来たことのある人なら知っていると思うが、ケイボーさんの奥さんであるマユミお母さんが作ってくれるご飯は、肉あり、魚あり、野菜ありでとても美味しい。でもこれが凄いボリューム。僕に出されるお皿には普段よそわれる量の1.5倍くらいあるではないか。マユミお母さんの歓迎の意味もあるので残せない。これを半ば必死で食べきる。パンパンになった胃が3cmくらい前に出た。不覚にもビールの入るスペースは無い。 作るの面倒くさいなぁと思っていた僕にはありがたかった。そう言えばパラオでもフィリピンでも共通しているのは、皆顔を見るとすぐに「ご飯食べていけ」と言ってくれる。「食」というのは人の基本だから、それを振舞うのは最高のもてなしなのだろう。 逆に日本やグアム(アメリカ)だとあまり言われないような気がする。いや、日本でも20年や30年前には言われていたはずだ。僕もばあちゃんの家に行くとそんなことを言われたような覚えがある。これは飽食加減の差からくる意識の違いなのか。物が豊かな、いや過ぎる国ではもはやこういう価値観も変わってしまったのだろう。 確かにパラオは、いや特にここペリリューは物質的に豊かとはいえない。小さな個人商店(本当に小さい)が村の中に5件だけ。そこしか買い物ができない。食材も日用品も限られた選択肢の中から選ぶしかない。でもここで生活をしていたが苦労は無かった。最小にして必要十分なのだ。また買うものが売って無いので出費は最低限の食費だけとなる。お金がかからない。かからないと言うことは、ここではお金は沢山無くてもいいものなのだ。 そういう所だから当たり前だがここは物流が盛えない。いやほとんど必要ないほど経済のレベルは低い。でもここに居るとそんな事はどうでもいい事で、それはそれでいいのかも知れないと思うのである。 お腹が減ったら海に行って魚を取り、木からバナナやパパイヤをもいで、畑からタロイモを取ってくる。道端からウカエブと呼ばれる陸ガニを捕まえて、手製のパチンコでコウモリを撃つ。喉が渇けばヤシに登って実のジュースを飲めばいい。マングローブに入ればB5サイズほどもあるマングローブクラブが取れるし、野生化した鶏だって、ヤシガニだって、ゴシキエビだってタカセガイだって、とにかくこの島の人口500人くらいを食べさせるくらいの食材はこの島の中で全てまかなえるのだ。こういうところでは人の心はおおらかになっていく。 先月まで日本に戻っていた。日本は物が豊富だとつくづく思う。何でも揃うし何でも買える。今夜頼んだ品物が翌日には届く。そういう国だ。でもこの国で豊かなのは物だけなのかなぁとも思う。僕は自分の周りしか分からないけど「心がささくれている」ような人が多かったように感じた。町を歩いていても、仕事をしていても、いつも誰かが誰かに怒っている。理由を聞くと意外と大した事でないことも多い。怒った者勝ち、みたいな風潮しきりである。ふと見た新聞のコラムに「日本人の心は病んでいる」と書いてあった。妙に納得。物の豊富さと心の豊かさはイコールにはならないのだろう。 常に全てが満ち足りているよりも、ほんの少し足りないくらいが本当は人間にとって丁度いいのではないのだろうか。真の豊かさとは何か。ペリリューの静かな夜、山盛りのご飯を食べながら僕は考えていた。 |
秋野 大 1970年10月22日生まれ 伊豆大島出身 カメラ好きで写真を撮るのはもっと好き。でもその写真を整理するのは大キライ。「データ」が大好物でいろんなコトをすぐに分析したがる「分析フェチ」。ブダイ以外の魚はだいたいイケルが、とりわけ3cm以下の魚には激しい興奮を示し、外洋性一発系の魚に果てしないロマンを感じるらしい。日本酒より焼酎。肉より魚。果物は嫌い。苦手なのは甘い物。 ミクロネシア・パラオ DayDream PALAU P.O.Box 10046 Koror Palau 96940 Tel:680-488-3551 Fax:680-488-2199 www.daydream.to/palau akino@daydream.to |