ガイドのつぶやき 海辺のエッセイ 豪海倶楽部  

ヘビギンポ偏愛(20)

[種とは何か]

魚が大好きで、この子は何者だろう?なんて毎日のように追求していると、水中ではどう見ても同じ種類にしか見えない魚が実は別種だったり、逆にどう見ても違う種類に見えるのに実は同種で、カラーバリエーションのひとつだったり、地域変異だったり、成長過程による違いだったり。。。という事がよくある。こうなってくると、「種」って何だろう?なんて、難しいことを考えてしまう。。。

種の概念にはいくつかの異なった考え方があるようだが、主なものとして、生物学的概念としての「種」と、形態学的概念としての「種」がある。

前者はエッチして子供ができれば同種、子供ができなければ異種って考え方。つまり、子孫を残せれば同種、子孫を残せなければ異種という事だ。後者は同じ形なら同種、違う形なら異種という考え方。これは外部形態や内部形態の違いを標本から調べて分ける考え方であり、分類学で実際に使われているのはこちらの方だ。

僕らダイバーは水中で魚の写真を撮り、図鑑と見比べたり、識者に写真を見てもらい、種類の特定をしている方が多いと思う。これは後者の形態学的概念としての「種」の同定に近い。

しかし、我々ダイバーは魚の一瞬を写真で切り取るだけでなく、実際に海で継続的に観察し、リアルな魚の生活を覗ける立場にある。つまり、前者の生物学的概念としての「種」の証明に貢献できるのだ。

【ヘビギンポ(八丈タイプ)】

さて、前回ヘビギンポ科の総大将である「ヘビギンポ」をようやく紹介できた。この「ヘビギンポ」という種類は北海道南部から沖縄まで広く分布しているわけだが、僕はここまで広い分布範囲を持つのはちょっとおかしい。。。と感じている。例えば水温も環境も違う北海道南部〜東北と屋久島や沖縄で見られるヘビギンポが本当に同じ種類なのだろうか?

実際、各地の標本を精査してもらうと地域によって微妙に(時に大きく)違いが見られるようなのだ。つまり、形態学的概念としての「種」としては何種類かに分けられる可能性が出ている。


婚姻色のオス / 伊豆諸島・八丈島

そんな中で別種となる可能性が最も高いのが伊豆諸島・八丈島で見られるヘビギンポだ。研究はかなり進んでいて、伊豆のヘビギンポとはあらゆる外部形態において違いが出ているようなのだ。

ところが厄介な事に、これらの違いは鱗の数や背鰭、臀鰭の長さ、大きさなど、僕らダイバーにとっては水中では絶対に分からない部分なのだ。

さらに上の写真を見ると分かるように、婚姻色は先月紹介した伊豆のヘビギンポとまったく違いはない。。。


婚姻色が頭から褪めつつあるオス / 伊豆諸島・八丈島

「ヘビギンポの仲間は婚姻色で見分ける」

これはヘビギンポの仲間を識別する常套手段なのだが、仮に八丈島で見られるヘビギンポが伊豆で見られるヘビギンポとは別種だとされた場合、この常套手段が役に立たなくなってしまう。。。う〜ん困った。。。(-_-;)

ただ水中でも明らかに分かるのが、成熟サイズ(繁殖可能な成魚のサイズ)の違いだ。伊豆などで繁殖を行っているヘビギンポの成魚サイズは7-10cmとかなり大型なのに対し、八丈タイプのオスはたった2〜3cmで婚姻色を呈し、繁殖行動を行っている事から小型のヘビギンポだと言える。


メス / 伊豆諸島・八丈島

以上の事は形態学的概念としての「種」を識別しているわけだが、果たしてこれらは本当に別種なのだろうか?

ダイバーとしてじっくりフィールドで観察する事で、この2タイプが別種であるか、同種であるか、自分自身で見極めたいのだが、遠くてなかなか古巣である八丈島に行けないのが歯がゆい。。。

参考:ヘビベース! - Triple-Fins Photo DataBase


原崎
原崎 森(しげる)

1970年8月26日生まれ
山梨県出身

八丈島から屋久島へ。。。
巨木と苔の深〜い森を抱える島で、あえて海に潜る。

鹿児島県・屋久島

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