ガイドのつぶやき 海辺のエッセイ 豪海倶楽部  

ハンディキャップ

中学生の時、他のクラスの男の子が遊びに来て、ちょっとドキッとしたことがありました。外見に、少し違和感があったからです。その男の子には眉毛がありませんでした。

当時は、今のようにお洒落のために眉毛を剃ったりする男の子はいません。私は、つい、他に何か違うところがないか、彼をまじまじと見つめていたのではないかと思います。彼は野球部だったらしく、私の教室に遊びに来たときはユニフォームを着ていました。野球部員はみんなイガグリ坊主だったので、頭髪があったかどうかは記憶にありません。ただ、彼は人一倍明るい性格のようで、私のクラスにいた野球部員と大声で談笑していました。 家に帰って母にその話をすると、「きっと、生まれつき体毛が少ない体質なんじゃない?」と言われました。その時初めて、無毛症という言葉を知りました。

でも、彼が無毛症だったのかどうかは、わかりません。結局私は一度も彼と話す機会が無かったし、友達は誰も彼のことを気にかけている様子がなかったので、私は自分が一瞬驚いてしまったことを母以外の誰にも話すことなく終わってしまったのです。しかも彼はいつも楽しそうにしていたので、いつしか私も彼の眉毛のことが気にならなくなっていました。

最近見られていたキンギョハナダイの黄化個体です。

本来ならキンギョハナダイのメスはオレンジ色、オスに転換すると少し灰色がかったピンク色へと変わります。この黄化個体、黄色くなっているというより、赤色が抜け落ちているという印象を受けました。初めて見た時には既に大きなサイズで、どうして今まで気がつかなかったんだろうと不思議なくらい目立っていました。多分、大きなメスだったのではないかと思います。他のキンギョハナダイ達と一緒にいて、一見他の魚たちと何ら変わりなく、ハーレムの一員になっているようでした。私たちの目から見ると、この黄化個体は、何のハナダイだろう?と思ってしまうほど、キンギョハナダイと異なっています。でも、当のキンギョハナダイ達からはどんな風に見えているのでしょうか? もしかして、色は全然関係ないのでしょうか? 少なくともこの時点では、この黄化個体にとって、体色が欠けていることはハンデではないんだなと思いました。

ところがある日、この黄化個体が他のオスから攻撃を受けている場面に遭いました。写真を撮ろうとしてハーレム全体に近寄っていくと、他のキンギョハナダイ達とは違う方向へ逃げていったりします。もしかすると、ハーレムから追放されようとしているのでしょうか? やはり、色がないことは、ハンデとなっているのでしょうか?

写真を撮っていて、そうではないことに気が付きました。

この黄化個体は、オスになりかけていたのです。元々キンギョハナダイらしい色をしていなかったので、メスからオスに変わる時の体色変化がなく、よく見ないとわかりません。フワッと鰭を広げた時に、背びれの先端が糸状に伸びていて「そうだったのか…」とわかったのです。

キンギョハナダイのオスは、ハーレムの中でいつも優劣を争っているため、メスがオスに性転換しようとしているのに気が付いた時にも牽制のための攻撃をすることがよくあります。つまり、キンギョハナダイのオスは、色の変化は全くなくても、ちゃんとこの黄化個体がオスになろうとしていることに気が付いているということになります。

来年の初夏、この黄色いキンギョハナダイがハーレムのトップを泳ぎ、メスたちに求愛ダンスを踊っているところが見られたら素敵でしょうね。

中学時代に出会った眉毛のない彼は、今、どんな男性になっているのでしょうか?

勝手な想像をさせてもらえれば、きっと彼のことだから職場の人望は厚く、家では子供とキャッチボールしたりしてるんだろうなあ。


水谷
水谷 知世

昭和40年代生まれ
兵庫県出身

一見、負けず嫌いで男勝りというイメージだが、実は繊細な女性らしい一面を持つ、頭の回転はレグルス一番!!の頼もしい存在である。(レグルス親方・談)

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