ガイドのつぶやき 海辺のエッセイ | 豪海倶楽部 |
津波 9月30日です。 ごめんなさい、もう締め切りなんてとっくに過ぎて、明日が10月1日の更新日だという日に、一生懸命原稿を書いています。 毎日のように「次は何を書こう?」とか、「あ、これは良いネタになるかな?」と考えているのですが、実際に本当にそれを書こうという気になるのは、どうしても締め切り間際なのです。で、たいていの場合、間際になって、ころっと考えが変わってしまいます。 今月は連休が終わったら書こうと思っていろいろと思案していたのですが、連休の前半が台風でつぶされ、後半に海が凪たと思ったら、ビックリするほど水温と透明度が上がっていたのです。しかも、その後どんどん魚影が濃くなり、ここ数日はまさに回遊魚祭り! まるでオーロラか緞帳のように波打つキビナゴの大群、そこへ弾丸のごとく突撃していくツムブリやカンパチの連合軍、スマの光速精鋭部隊。キビナゴたちは大輪の花火のごとく四方へ舞い、流星のごとくきらめきます。これを見て、今まで考えていたことが、ころっと変わってしまいました。 今年の私の原稿と言ったら、腰痛だの怪我だの、どうも暗い話題に偏りがち。 よし、ここは1つ、八丈ブルーの明るい話題で!! と意気込んでみたのです。 しかし、世の中、そう甘くはありませんでした・・・。 しばらくゲストが途切れることなく、講習も入ったりして、なかなか自分で写真を撮りに行く暇がなく、空いている日が9月30日だけだったのです。 そう、つまり今日ね。 昨日から、せっせとポートを付け替え、ストロボもカメラの電池も充電し、ハウジングの水没チェックをすませ、準備万端の状態でした。これで良い写真が撮れたら、それで原稿書いて送ろう!と思っていたのです。 それが、午前9時、気象庁から津波注意報。 「海岸へは近づかないで!」と、防災無線が島内にガンガン響き渡っていました。 近づいちゃダメなのに、潜ってたら怒られちゃいますよねぇ。伊豆諸島への予定到達時刻は12時。注意報が解除されるのは何時になることやら。 うぇーん。 楽しみにしていた計画がガラガラと崩れ落ちてしまいました。 この津波注意報に日本人がとても敏感になったのは、2004年に起きたインドネシアの大地震で起きた津波の影響で、タイやモルディブにまで大きな被害が出た時からではないでしょうか。あの時何度も放映された映像で、現地で海を眺めていて津波が来るとわかった時点では、もう逃げても間に合わないんだということを、まざまざと見せ付けられました。あの津波が起きる前は、今よりも津波注意報そのものの頻度が少なかったような気がするし、注意報が出ても平気で海を眺めて「静かじゃん。」なんて言っていました。 一度、こんなことがありました。 写真のデータを見ると、2006年11月16日のことです。この日の前夜、千島列島沖地震が発生し、北海道を中心に伊豆諸島にも津波注意報が出ていたため、しばらくダイビングを見合わせていました。しかし、16日の夜明け前には解除されていたため、底土へ潜りに行きました。 元々風が弱く、海はベタ凪。外から見ている限りでは、風波も立っていなければ、うねりもなし。底土というのは、比較的穏やかなポイントで、流れがあるようなところでもありません。 ところが、潜ってみてビックリ。 なんだか、いつもと違うのです。海の水が、それこそ上下左右、四方八方に動いていて、体を思うように動かせません。ものすごい流れを感じるところもあれば、体が浮き上がってしまうように感じるところもあり、砂も舞い上がって、まるで洗濯機の中を泳いでいるようでした。いや、これはとてもじゃないけど、潜っていられない・・・、その時には、それが津波のせいだとは思いつきませんでしたが、このままじゃ危ない・・・、そんな気になってしまう海でした。 疲れてしまって、グッタリしながら海から上がり、さっさと帰ろうと思っていると、一緒に潜っていた親方が呼び戻しにきました。 なんと、私が一度で良いから見てみたいと思っていた魚が、エントリー口すぐのところにいたと言うのです。「今なら間に合う!」という親方の言葉に、かなり躊躇しました。また、あの海に戻って大丈夫なの・・・? でも、結局誘惑に勝てず、そのままもう一度エントリーしたのでした。 この後、この魚はパラオで普通に見られたのですが、津波の恐ろしさを思い知らされた思い出の魚となりました。 八丈でハクテンカタギを見たのは、私にとってはこれが最初で、今のところ最後です。これも津波のなせる業だったのでしょうか? 今日の午後3時頃、津波注意報は解除されました。 |
水谷 知世 昭和40年代生まれ 兵庫県出身 一見、負けず嫌いで男勝りというイメージだが、実は繊細な女性らしい一面を持つ、頭の回転はレグルス一番!!の頼もしい存在である。(レグルス親方・談) 伊豆諸島・八丈島 レグルスダイビング 〒100-1511 東京都八丈島八丈町三根1364-1 Tel/Fax:04996-2-3539 http://www.edit.ne.jp/˜regulus |