潜るコピーライターのアンダーウオーターズポエム 豪海倶楽部  

行かねばならにゅ!〜クマノミの巣立ち物語〜

ここは南のあたたかい海。
太陽と波の恵を受けて、クマノミ家族が暮らしています。

おーっきなお母さんと、ちゅうぐらいの子、ふつうの子
そして、ちっちゃい子達。
心地よさそうなイソギンチャクに包まれて、平和そのもの。
そのも・・の?
あれ?えーっと・・一匹だけイソギンチャクに近よれない子がいますね。
戻りたいのに、戻ろうとしたら、お兄ちゃんに叱られています。
後ろをふり向きふり向き、懸命に何かを考えているみたい・・。
いったい、このクマノミ家族に何があったのでしょう?
この子に“マアノ”と名前をつけて、少し見守ってみましょうね。

クマノミは、とても大家族。マアノにもたくさんの兄弟がいます。けれど、本当に血のつながりのある子はいません。びっくりですね?。子供達は、ほんの赤ちゃんの時に、波に届けられて来るのですって。お母さんは、波からの贈り物達を、“太陽の種”を授かったと喜び、我が子のように大切に大切に育てていくのです。

お母さんの子育て奮闘!まずは、これからお世話になるイソギンチャママへ「あたらしい家族が増えましたにょ。よろしくお願いしますにょ」って紹介をして、予防注射をしてもらいます。ピリッ(>_<)。それから、“にゅるにゅる泳ぎ”や、“にゅる隠れの術”の特訓を始めるんですよ。クマノミにとってこれらの“にゅる忍法”は必須科目です。出来ないと恐い目にあう!巨大な敵におそわれて、命のピンチにおちいってしまうのです。

にゅるん・スッテン。にゅるん・ゴッツンと、がんばっている赤ちゃんクマノミ達の様子を見ていると、マアノは自分の時を思い出します。それはそれは厳しい修行だったので、思い出すだけで涙があふれかえってきます。でも、いま流れるのは修行中の “辛い涙”とは違い、 “キュンとする涙”です。誰だって厳しい特訓を強いるのは辛いものです。マアノも新しく来た赤ちゃん達に、厳しい事を言うのは辛い!出来れば何も言わずにナデナデしていてあげたいくらいです。でもそれでは赤ちゃん達は危険に遭います。厳しさは「嫌われてもいい」と思うくらいに勇気が要ります・・。その辛い事を、マアノの命を思って行ってくれたお母さん・・。その気持ちを思うと、深い愛に胸がキュゥンとしぼられて涙がでてくるのです。

厳しい特訓の理由は、マアノに赤ちゃんの時の“波の旅”の経験がなかった事にもあります。普通のクマノミは、マアノが未だ知らないある習性から、本当の子供を育てません。もちろん卵を産んで大切に世話をして孵しますが、ハッチアウトした子らを、すぐに“旅立ちの波”に預けて、流れ着いた場所に在るよその家族に育ててもらうのです。

けれど、マアノは本当の親の元で育てられています。それはとても珍しい事なのですが、一緒の卵だった兄弟の中では一番身体が大きかったマアノは、最後の最後まで卵から出られず・・忘れられた頃にようようハッチアウトしたので、“旅立ちの波”に乗り遅れたまま残ってしまったのです。あわてたお母さんは、少し迷いながらも、ここで育てる決意をしました。

そして、二ヒキ三ヒレの猛特訓。おかげで誰よりも上手に“にゅる忍法”を出来るようになったのです。

マアノは大のお母さんっ子。
つおい、つおい、太陽のようなお母さんが大好き。
「お母さんみたいになりたいにょっ!」って、あこがれながら、毎日を楽しく幸せに過ごしていました。

ところが、ところが、このごろ少しさみしいのです。
なぜかというと、お母さんの元気がなくなって、あまり遊んでくれなくなったからです。その上、お兄ちゃんも急にいじめっ子になって、マアノにツンツンタックルをしてきます。イソギンチャママの中はくもり模様。お母さんは「お外で遊んできにゃさい・・」と言いますが、マアノは、お外が嫌いです。だって、コワイ!きょうぼうなお魚がガオッって来たりするからです。もともとクマノミは、イソギンチャクというプニョプニョの“大いなる安全”をお家にしていて、あまり離れないのが生活習慣なのですから・・。

家族の変化は、お父さんが突然いなくなっちゃった頃から始まりました。お母さんもしばらくの間は、新しく来た赤ちゃん達のお世話をしながら、元気に帰りを待っていた様子だったけれど・・・。ある日「もぅ、ウチのお父さんは戻らんにょだろうねぇ・・」と、イソギンチャママに話かけて深ぁいため息をついているのを見たのです。

そばに居てお母さんを元気づけてあげたい!と思うマアノとは逆に、お母さんはマアノとの距離をおく一方です。お家の中にピシピシ音がするようで、ほっこりできません。

悩んだマアノは、イソギンチャママの子供でお兄ちゃん的存在の、“チャックン”に、相談をしました。チャックンは、いつも、波が吹いてくる方向に顔を向けて、さっそうと腕や髪をなびかせています。「波はとても物知りで、いろんな話しを僕に囁きながら通り過ぎるッチャよ」と目を細めます。マアノは、そんなチャックンが大好きで、いつかその薄ムラサキに光る身体に触れてみたいと、ドキドキしながら見つめているのです。

チャックンは少しうつむいて光をピコピコさせていましたが、思いきったように髪をかき上げて言いました。「どうだろう?噂の“元気がでる秘密の薬草”を探しに行ってみてはッチャ」

その噂は、マアノも旅のクマノミおじさんに聞いた事があります。おじさんは、マアノとお母さんを見比べて「ほぉ〜。ヒレの黄色と、しっかりした体格が良く似ているにょ。君達は実の親子なのかにょ?ふむふむ珍しい。そうかそうか」と頷きました。そして「あ、そうじゃ。もしも・・、もしもじゃよ?お母さんの元気がなくなってしまった時には、秘密の薬草が一番効くんじゃにょ。でもそれは、きっと君にしか見つけられない遠い場所にあるんだにょ」って言ったのです。その言葉は、お母さんが複雑な笑顔をした事と一緒に良く覚えていました。

お母さんはこんなに元気なのに、変な事を言うおじさんだい!と、その時は思ったのですが、まさか本当にそうなってしまうとは・・・。

マアノは決心しました。

もうすぐ、お母さんが卵を産む季節です。
早く元気になってもらわねばなりません。
早く元気になって、新しいお父さんを見つけてもらわねばなりません。
そのためには、マアノが薬草を探す旅に行かなければならないのです。

外の海には不安がいっぱい。
これは命をかけた旅になりそうです。
家族と離れるさみしさ。
住みなれたイソギンチャママと離れる辛さ。
マアノはヒレをふるわせました。

波がそよっと吹きました。
まるで行く先を示すかのように流れました。
マアノはピンッと背ビレを立てて、彼方を見つめました。
と、その時、チャックンが、ふわっっとマアノの身体を抱いて言ったのです。
「どうだい、僕の入り心地は?そろそろ僕も大きくなったッチャよ」って。

ドクンッ!ビリビリッ!
薄ムラサキの電気がしびれるように走り
マアノは、身体中で感動しました。
チャックンとの一体感。
頭がぼぉ〜っとなって、それからトロンとして。。覚醒!
新しくわき上がる本能のようなものを感じました。
自分がクマノミだと改めて実感した不思議な瞬間でした。

もしかして、この旅は何か・・・
何か、もうひとつの意味がある?
子供としてではなく、クマノミとしてそう直感した時
「行かねばならにゅ!」と
いっそう激しく決意を固めました。

チャックンと共に同行二ヒキ
いよいよ旅立ちの時が来ました。

何度も何度もふり向いたけど、
「行かねばならにゅ!」と決めた道。

イソギンチャママと、お母さんが、
ちぎれんばかりに、手をふっています。

その意味を、マアノが知るのはもう少し先・・。

とある南のあたたかい海。
波は故郷のお母さんに、立派になったチャックンと、家族を持ったマアノの話しを届けるでしょう「太陽の種達はスクスク元気に暮らしていますよ」って・・。

私もいつか、いつの日か、また会える日を楽しみにして
彼らにそっと手をふりますね。

Very Thanks to Ms.S.N @ Five Ocean
*Inspired by Your Guide* 

Very thanks to Mr.Y.I (SP scanist !!!!!) 

 

※うけうりウンチク※
クマノミの家族は、一番おおきな母親と、二番目におおきな父親とを中心に形成されています。けれど実は、その他の子等は全て血の繋がりはなく、性別もない中性君・・。母親に何かあった時は、父親が母親に変身、又、父親に何かあった時には、次におおおきな子が父親に変身し家族を守ってゆくらしいです。JUN-Pは10年ほどダイビングをしていますが、この事実を初めて知って(遅い?)ちょっとびっくりしました(>_<)


仲
JUN-P(仲 純子)

大阪在住ファンダイバー
職業:コピーライターとか

1994年サイパンでOWのライセンスを取得。

宝物はログブック。頁を開くたび、虹のような光線がでるくらいにキラキラがつまっています。

海に潜って感じたこと、海で出会った人達からもらった想いを、自分のなりの色や言葉で表現して、みんなにも伝えたいなぁ。。。と思っていました。そんな時、友人の紹介で雄輔さんと出会い、豪海倶楽部に参加させていただくことになりました。縁というのは不思議な綾で、ウニャウニャとやっぱりどこかで繋がっているんだなぁ・・って感動しています。どの頁がたった一枚欠けても、今の私じゃないし、まだもっと見えてない糸もあるかもしれない。いままでは、ログブックの中にしまっていたこと・・少しずつだけど、みなさんと共有してゆきたいです。そして新しい頁を、一緒につくってゆけたら嬉しいです。