沖縄周遊見聞録 豪海倶楽部  

第1回 沖縄本島・本部 エイヒレ事件

今月から短期連載で6回書くことになった。69トリオという「おいおい肇〜、俺たちいつからこの名前なんだよ〜?」的なチーム名も決まり順風満帆のスタートだ。その3男坊としての登場らしい。69トリオといってもホントは70年だがその辺は大人のココロで大らかに聞き流そう。

そういえばこの夏、僕はトウザイナンボクジュウオウムジン的な動きで1ヶ月半かけて沖縄を回っていた。僕が書く事はこの頃から分っていたのだがネタが決まっていなかった。ネタが決まらないとそれが頭から離れず何となく気持ちが悪い。どのくらい気持ち悪いかというと、久しぶりに会った人の名前がのど元まで出てきているのに思い出せないくらい気持ち悪い。そのままシラバックレテ会話は続いていくのだが、頭の中では「あれー?誰だっけー?」なんてクエスチョンマーク山積状態になる。さすがにネタが決まらなくてもクエスチョンマークは出ないけれど、“どうしよう”の文字は頭の中をぐるぐるしている。先輩も沢山、みんなも見ているし、あんまりつまらない事は書けない。うーん、うーん、と困っていると、丁度その時に遊びに行っていた沖縄本島・本部ファイブオーシャンの肇(高野氏ね)が「このこと書けばいいじゃん」と言うではないか。そうか、そうしよう。友達の言う事は聞かなくちゃな。ついでに一回目は目の前にいる肇のところで遊んだ事にしよう、と答えは意外に簡単に導き出された。人生以外にこんなもんだ。

8月15日に石垣島から沖縄本島に着いたのが11時半、朝からずっとクーラーのかかった空港や飛行機の中に居たので外の気温が分らない。ロビーに出たとたんにモアッとした熱気と湿気に包まれる。これこれ、これなんだよな正しい沖縄のクウキっていうやつは。迎えに来てくれたのはFO(ファイブオーシャン)の番頭ガイドの島崎君。「はじめましてー」なんてさわやかな笑顔で迎えてくれた。爽やかだからよかったが、もしこの空気と同じくらい暑苦しい挨拶をする人だったらどうするか。空港奥深く戻ってしまおうか。そんな頭もゆで上がり気味なことを考えながら簡単に自己紹介して、他のお客さんの到着を待った後に那覇から車で1時間半ほど移動する。高速も使って1時間半行っても沖縄本島半分ちょっと。沖縄ってデカイんだなぁと実感。昔あったコピーで「でっかいどー、北海道」なんて思い出す。うーん、歳がバレルな。まあいいや。こういうところから旅って始まっているんだよなぁ。よっしゃよっしゃと一人で勝手に盛り上がる。本当は上がっているテンションと同じように車の中でハシャいでやろうかと思ったのだが、他にお客さんもいたので大人のフリをして静かにしていた。実は僕は沖縄エリアは来たことがない。数年前に一度仕事で西表島に行ったことがあるだけなので全てが目新しく映る。

到着後すぐにFOのオーナーであり、友達の肇に会う、「久しぶりー」なんていう前に「アキノっちーどこでも行けるよー」という肇の声と同時にボートに乗り込む。こういう“あうん”の呼吸の良さって海好きのダイバーだからなのだろう。天気も良く海も穏やかで、全てが僕を歓迎しているのではないかと、錯覚もここまで行けば立派なものだ。そんな“宇宙は自分を中心に回っている”的な完全無欠の自己中心的思考をしている男を乗せて、船は気温30度の暑い空気のなか本部の海をポイントへと走る。

今回潜ったところは大きく分けて3ヶ所。水納島、瀬底島、伊江島。水底が白い砂地で明るく、いわゆるイメージ通りの沖縄な水納島。水底がグレーでハゼやマクロネタが多くて100mmくらいのレンズを持っている人にはウハウハな瀬底島。豪快なドロップオフでどこまでも落ちていきたくなる、どちらかと言うと男っぽい海の伊江島。それぞれの印象、インパクトが違っていてとてもとてもウハウハ的に面白かった。島が変わると海も違うわけで、なるほど、このバリエーションの多さが本部の魅力なのだろう。驚いたのは瀬底島のハゼの数。ヒレナガネジリンボウやヤシャハゼがウジャウジャいる。それもみんな10mくらいの浅場で、それで逃げない。たまげたなぁ。パラオだったら20mまで行かなきゃなかなか見られないのに、こんなにいて羨ましい場所だ。2,3尾パラオに持って帰りたい衝動に駆られるがそういう無駄な考えをするのはやめよう、人格疑われちまうからな。

3日目、肇に「窒素が足りない、下に連れてってー」と言うと伊江島へ連れてってくれた。下に行ったところで、肇が「アキノー、エイヒレ、エイヒレ!」と呼ぶ。「えー?エイヒレ??」と近づくと、「ほら、あそこ! エイヒレ!」とレギュ越しに話す声がクリアに聞こえる。でも、その辺りにエイは居ない。クリアに聞こえるが、一体肇が見せたいのはなんだ?「ほら、あそこあそこ」「えーどこどこ?」なんてやり取りを繰り返す。初日に合っていた呼吸はどこへやら、である。そのうち肇の指が差す先に1尾のベラが激しく泳ぎ回っていた。「ベニヒレイトヒキベラ」だった。「あーあ、ベニヒレねー」と、やっと分った嬉しさとベニヒレとエイヒレを聞き間違えていた自分のアホさ加減に呆れた。「ベニヒレイトヒキベラー」ってフルネームで言ってくれればもっと早く分ったのにー。と、肇のせいにしても仕方がない。水深はとっても深いところ。何かを見せようとする肇、そして横で必死で“エイヒレ”を探す僕。傍からみていたらおバカな35歳が2人で深海でコントをやっているように見えただろう。(笑) 「これ絶対豪海に書いてやる」と深い海の底でその美しい魚を見ながら強く誓ったのであった。

4日目は窒素欠乏症の僕が可哀想に思ったのか、瀬底島の裏側のポイントに連れて行ってもらった。「ピンクちゃんを見せるよ」と、矢野さんの“日本のハゼ”にも載っているクロユリハゼ科の1種を探してくれるらしい。もちろん見たことない。見たことないものには何でも興味を示す僕の習性がこの4日間でバレたのか?さすが本部の名ガイド(このくらい持ち上げておけばいいか?)だけあって、こっちが何を喜ぶかを見極める眼力を持っている。楽しませてもらった。もちろん水中でのピンクちゃんはとてもとても綺麗だった。写真を撮ったがヒレをなかなか開いてくれなかった。大人として「流れがあったからねー」と言い訳も忘れずにしておく。

夜は夜で、肇と一緒に清く正しく間違えず大人として居酒屋へ行く。僕はこの居酒屋という言葉の持つ響きが好きだ。何となく皆で語らいをしなくてはいけないようなテーブルの配置とか、皆で取り分けられれうようになっている料理とか、とにかく“誰か”と行かなくちゃならない。ひとりじゃダメなのだ。そしてそのテーブルに着き語った。海のこと、スタッフのこと、ガイドのこと、マネジメントのこと、とにかくいろんなことを話しまくった。話すだけではお腹も減る。話したぶんだけ食べ、そして飲んだ。いやー、楽しいぞ。明日はいよいよ那覇に移動だ。それにしても肇の経営哲学は勉強になったな。だからスタッフの皆が頑張っているのだろう。ガイドのトモ君も頼もしいし、迎えに来てくれた島崎君は写真もやる。今度は彼らを捕まえて語ってみるか、などと酔った頭で考える。目の前にあったのは美味しそうなエイヒレだった。



秋野
秋野 大

1970年10月22日生まれ
伊豆大島出身

地元の海でガイドデビュー、その後もっと熱くガイドができる海で仕事がしたい、とパラオへ。移住後、まずは魚を知るべし、と一年以上図鑑を枕にしながら毎晩眠る。自称カメラマニアで写真は好きらしいが、デジタルには全く歯が立たない。

ミクロネシア・パラオ

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