南国通信 楽園からのらくがき 豪海倶楽部  

肴の魚

四季折々の旬がある日本の魚に比べて、南の島の魚はまずい、という話をよく耳にする事がある。季節や、ワビ、サビ、と言ったものを大切にする日本人の食文化が言わせる言葉だろう。ところがどっこい、この南の島々にも、日本の魚に負けないくらいに美味しい魚がたくさん泳いでいる。料理上手な日本人が住んでいれば、きっとおいしい魚のレシピがいっぱい出来ているに違いない。

まずはその鮮度である。江戸っ子が宵越しの金を持たないのなら、チュークの人達は、宵越しの魚は食べない!その日に取れた魚はその日のうちに食べてしまう。冷凍なんぞは以ての外である。日本で最も多く食べられている魚の1つにカツオ・マグロ、がある。遠洋魚の代表各である。日本では遠洋でもここチュークはその漁場の真っ只中にある。かつての日本時代、当時日本で消費される鰹節の、なんと60%は、チューク・パラオなどのミクロネシアで生産された。朝釣れたカツオはその日のうちに捌かれ、釜茹でをし、鰹節となるべく既に天日干にされた。当時は、南洋で生産される鰹節は最高級品として、日本中で重宝されたのである。

獲れ立てのカツオの刺身は、マグロともおぼしきもので、これがカツオか?と思うほどに美味い。いわんやマグロをや、である。チュークにいらっしゃるお客様に、獲り立てのマグロをよくご馳走する事があるが、その美味しさには一様に脱帽する。新鮮なマグロの頭をそっくりそのまま焼き上げた兜焼に至っては、涙が出るほどに美味しい。このようにチュークで獲れる魚は、いずれの魚も鮮度抜群で、それ故に美味しさが一段と引き立つのである。料理の腕では無い。鮮度のなせる業である。

チュークの人達の魚の食べ方はとても単純で、日本人のように手の込んだ料理は殆ど無い。生で食べるか、椰子ミルクで煮るか、焼くかである。日本人も刺身と称して生で食べるが、ここの人たちの生食は、日本人の上品な刺身には程遠い。魚をそのまま、姿のままか、もしくは大きくぶつ切りにして生で食べる。焼くのも、上品な塩焼きではない。ウロコもはらわたもそのままに、焚き火の上にポンと乗せて、あたかも日本のタタキ風に、両面をちょっと焦がして、中は生焼けの状態で召し上がる。日本人にはちょっとまねの出来ない食べ方である。そんな環境で食べる魚達であっても、美味しい魚は沢山ある。

スジアラと呼ばれるハタの仲間は、日本では高級魚である。刺身はもちろん、フライやから揚げ、アライや酢味噌ヌタ、にしても美味しいが、特に鍋がいい。熱帯の島で囲む鍋だが、このハタ鍋は格別に旨い。野菜や食材が極端に少ないチュークでは、鍋と言っても、入れる物はこのハタと白菜のみである。その白菜すらもいい物はなかなか手に入らない。たまにきれいな白菜が入ったときには、新鮮なハタを求めて、ハタ鍋を作る。このハタ鍋には、まともな日本食に飢えてる私や家内だけでなく、子供達までが競って箸を出す。友人が日本から来る時は、ハタ鍋をするために白菜と味噌をこっそり担いでやってくる程である。

ヒラアジの仲間には、大きなローニンアジを始め、ギンガメアジ、カスミアジ、カッポレ、シマアジ、南洋カイワリ、などといった沢山の種類がある。この中でも特筆ものが、カスミアジと南洋カイワリだ。カッポレやシマアジも美味しいが、総合点では、このお二人さんには叶わない。まず、南洋カイワリ。頭の小さい、この平べったい魚は、エサで釣るのは難しく、従って市場にはなかなか出回らない。ところがルアーにはよく反応するので、日本人の釣り客や、私が自分で釣りに行く時には、必ずゲットする魚である。頭と腹が小さくて実の部分が大きく、しかも厚みが余り無いので塩焼きやから揚げには最適である。しかも味は天下一品ときている。3枚におろし、ちょと塩をして、酢で〆ると、酒の肴にも絶品だ。

次に、カスミアジ。興奮すると、澄み切った青い霞み模様を体いっぱいに際立たせるこの魚は、日本から来る釣り人達にとっても人気の魚の1つである。そして食材としても南の島の魚の中でもトップクラスにランクされる。ヒラアジの仲間では文句なしに最高の食材だろう。大きいものは、10キロ近くにもなる。きれいな魚で形もよく、捌く方も気持よく包丁が入る魚である。3枚におろした後のアラは、カマや頭を取り分け、背骨はスープ用に切り分ける。捨てるところは何も無い。寿司・刺身、煮魚、フライ、テンプラ、塩焼き、と何でも来いだ。そして、このカスミアジも、南洋カイワリも、最後の仕上げにそろって美味しい潮汁を提供してくれる。

我が家で好んで食べる魚に、『アオチビキ』がある。通称・パシィフィックサーモンと呼ばれているこの魚は大きなものは10キロほどにもなり、フィッシングの対象魚としても人気がある。この魚は、どんな料理にも向いており、真アジ同様、白身魚と赤身魚の特色を備えた重宝魚で、その味は天下一品である。塩焼きはもちろん、寿司・刺身、テンプラ、フライ、から揚げ、煮魚、とどれをとってもトップクラスにランクされる。そしてもう一つ、アオチビキの潮汁は正に絶品で、しかもスープが冷めてからでも臭みが無く、美味さが損なわれる事がない。このアオチビキモもまた、カスミアジ同様、エラとはらわた以外には、捨てるところは全く無い。釣りに出かけてアオチビキが釣れると、思わず顔がほころぶ。そして、頭の中は、早くも夕食のメニューの事でいっぱいとなるのである。

友人達を家に迎えるとき、ローカルフードの他に彼らをもてなすのは、いつも生きのいいこれらの魚たちである。料理好きで、お祭り好きな私にとっては、美味しい、そして鮮度抜群の南の島の魚たちは、何物にも変えがたい食材である。毎年チュークにやって来る、とある友人のグループの為に、鮮度のいいアオチビキを用意する事は恒例となってしまった。

高級食材・魚は肴

チューク諸島
末永卓幸


末永
末永 卓幸

1949年1月生まれ
長崎県対馬出身

立正大学地理学科卒業後、日本観光専門学校に入学・卒業。在学中は地理教材の収集と趣味を兼ねて日本各地を旅する。1973年、友人と4人でチューク諸島を1ヶ月間旅行する。1978年チューク諸島の自然に魅せられ移住。現地旅行会社を設立。現在に至る。観光、ダイビング、フィッシング、各種取材コーディネート、等。チュークに関しては何でもお任せ!現地法人:『トラックオーシャンサービス』のオーナー。

ミクロネシア・チューク諸島

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