南国通信 楽園からのらくがき 豪海倶楽部  

海の驚異

チューク環礁は周囲が200キロ以上もある世界最大の環礁である。

太平洋の中にポッカリと浮かんだそんな環礁のあちこちをボートで走り回っていると、いろんな事柄に遭遇する。

最もよく見かける光景が、飛び魚である。

大きなウネリの上を、まるで滑るように、優雅に、ボートよりも早く、かなりの距離を飛んでいく。

私はこの飛び魚の飛び方がとても好きで、いつも最後まで見つめている。

よく観察していると、この飛び魚にも個人差(固体差)があるらしく、飛び方にも上手、下手が如実に現れている。

飛んだかと思うと、すぐに海面に没してしまうドジな飛び魚もいれば、高く舞い上がり、飛行機が旋回するように、滑るように海面上を上手に飛んでゆく飛び魚もいる。

そして驚いた事に、稀にではあるが、2段飛び、3段飛びをする飛び魚を見かけることがある。

一度滑空して水面に没するかと思ったその瞬間、尾びれをビビビ・ビッと海面に震わせて、前にも増したスピードでまた海面上を滑空して行くのである。

そして一度ならず2度も飛び直す飛び魚を見ていると、もう嬉しくて嬉しくて、ただただ単純に海の驚異に酔ってしまう。

環礁内でよく見かけるもう一つの光景に海亀の姿がある。

静かな海面に、頭をチョコンともたげ、大きな甲羅を海面に出し、流れに任せてゆったりと浮かんでいる。

ほとんどが、アオウミガメやアカウミガメ、タイマイ(鼈甲亀)で、小さな物から、甲羅の大きさが1.5mもある大きなものまでさまざまである。

ところが、もう15年以上も前の事であったろうか、とても珍しい巨大な海亀に出くわした事がある。

亀の中の王様・オサガメである。

このオサガメを見たのは、とある大きなクルーザーの上からだった。

いつものように海を見つめていると、かなり離れた前方の方に流木らしい漂流物が見えてきた。

それが段々と近づくにつれ、どうも見たことも無いような漂流物で、よーく見ると海亀のようでもある。

しかし、どう見てもこれまでの海亀の常識をはるかに打ち破る大きさである。

その時、私の頭の中にはそのような巨大な海亀の存在は全く無く、それが海亀であると言う思考にはどうしても思い至らなかった。大蛸や大イカの話はよく聞くが、このような大きな亀の話しなどは、一度も見た事も聞いた事も無かった。

その漂流物が船のそばに来た時、『エッ』と、思わず息を呑んだ。

まるで海の怪物を思わせるような巨大な海亀の姿がそこにはあった。

その時は、海の底知れない神秘に感動し、船べりにたたずみ、いつまでも海面を見つめていた事を思い出す。

このように、海に浮かぶ海亀達は大概は1匹だけで、ボートが近づくとサッと海中に潜ってしまう。

しかし、稀にだがこの海亀達が海面で交尾をしている場面に出くわす事がある。

こんな時には、さすがの亀さんも行為に夢中で、ボートが近づいてもなかなか体を離そうとしない。

時にはゆったりと流れに任せ、ある時には激しく海面を叩きながら体を動かし、いつまでも2匹仲良くくっ付いているのである。

そして、海で遭遇する代表は何と言ってもイルカ達であろう。

2〜3頭の小さいグループから、海洋一面見渡す限りイルカの群れ、と言う場面に出くわす事もよくある。

私はフィッシングのガイドで環礁の周りや外洋に出る事がよくあるのだが、そういう時には必ずと言ってよいほどイルカの群れに遭遇する。いつも見慣れているとは言え、何度見てもイルカは可愛く、その姿には心を慰められる。

イルカの群れ程頻繁ではないが、最近は、チューク環礁の外洋でクジラに遭遇する事がよくある。

遠くの海面を沢山のクジラが列になって移動する姿をよく見かけるし、間近で潮を吹くクジラに出会った事も何度かある。

そして最近、マッコウクジラの群れにまともに出くわした。

環礁から5キロほど離れた洋上、見渡す限りの海面がまるで沸騰しているかの如く、カツオ・マグロの群れが水中を泳ぎまわり、ジャンプを繰り返し、その中には大きなサメが獲物を狙ってこれまた狂ったように泳ぎ回っている。

そんな異常な状態のトリヤマの中で釣りをしている真っ最中の出来事だった。

なんと今度はマッコウクジラが現れたのである。

最初、ボートから離れていたクジラは、段々と我々の乗っているボートに近づき、そしてついにはボートを擦るように体を滑らせマッコウクジラ特有の長くて大きな胸鰭(むなびれ)を天高く指差すように掲げながら、我々の目の前を通り過ぎていった。

あの時の状況は大きな感動となっていつまでも私の心の中に熱く残っている。

そしてもう一つ、シャチである。

この2〜3年、シャチを見かけることが多い。

クジラ同様、遠くの海面をゆっくり移動するシャチを見かけることがよくある。

ボートのそばまで来て、何か話したげに目の前の海面をゆっくりと過ぎ去っていったシャチもいた。

そして圧巻は、やはり釣りをしていた時にやってきた。

チューク環礁のとあるパス(水道)でキャスティングに興じていた時の事、遠くの海面に10頭近く、2つのグループに分かれて移動しているシャチの群れを見かけた。

遠巻きに行きつ戻りつしていたそのシャチの中で2〜3頭が段々とこちらに近づいてきた。

私達がキャスティングをしていた所はパスのコーナー付近で、水深は20m前後と浅い場所である。

とてもこのような浅い所にはやって来ないだろうと思いながら、それでもドンドンと近づいてくるシャチに目を奪われながら漫然と竿を振っていた。

ところが、2頭のシャチがすぐ近くまでやってきたかと思うと、なんとそのままボートに体をくっ付けるようにして、その場に止まってしまったのである。我々の乗ったボートに体を擦るようにしてクルクルと回っている。1頭は30フィートのボートよりも大きく、そしてもう一頭はその子供であろうか、半分にも満たない大きさである。大きなシャチの方は手で触れる距離だ。

そのまま5分も居ただろうか。。。

私にはとてもとても長い時間に感じられた。

一緒に泳ぎたい衝動に駆られたが、この時は何となく躊躇した。

カメラを持っていなかったのがとても悔やまれた。

陸上ではとても経験できない海の驚異の数々。。。

底知れない神秘と感動を与えてくれる海。。。

海に酔いしれ、海に感謝し、そして海に遊ぶ。

そんな海を舞台に生きていける幸せを心から感じている。

海に遊び、海に生きる

チューク諸島
末永卓幸


末永
末永 卓幸

1949年1月生まれ
長崎県対馬出身

立正大学地理学科卒業後、日本観光専門学校に入学・卒業。在学中は地理教材の収集と趣味を兼ねて日本各地を旅する。1973年、友人と4人でチューク諸島を1ヶ月間旅行する。1978年チューク諸島の自然に魅せられ移住。現地旅行会社を設立。現在に至る。観光、ダイビング、フィッシング、各種取材コーディネート、等。チュークに関しては何でもお任せ!現地法人:『トラックオーシャンサービス』のオーナー。

ミクロネシア・チューク諸島

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