ガイドのつぶやき 海辺のエッセイ 豪海倶楽部  

第八話 エイジアンブルー(前編)

実は、日本以外のアジアの海で潜るのは、これが2回目であった。

初めて潜ったのは、忘れもしない韓国のリゾート地である「済州島」であった。6月の末ならば水温は22度あるとの現地コーディネーターの話しを鵜呑みにして、5mmのウエットを持って行ってしまった。水温は15度。行く前に、現地を潜ったことのある同業の潜水士の言葉が思い返された。

「あそこは寒流が入っているから、夏でも水が冷たいんですよ」

人の話しはチャント聞くものである。水中は、冬の東伊豆そのもので、何故自分が寒さ堪えて撮ってます...か忘れてしまうほどだった。

さて、話しをもとに戻して、2度目のアジアはインドネシアのバリ島であった。アジアには、フィリピンやタイを始め、魅惑的なダイビング環境が整っている。しかし、僕のデビューは遅く10年前の話である。いろいろな理由が考えられるが、一番の理由は「近い場所は杖をついてからでも行ける」と思い込んでいるからであった。そんな屁理屈をコネていないで、感受性の強いお若い時期に、とっとと行っておけば良かったと思う今日この頃であった。

今回は、そのバリでの体験を綴ってみよう。

当初の目的は、当時バリだけにバリバリの話題になっていたシークレットベイを潜り倒すことであった。しかし、そこから目と鼻の先にムンジャガンと言うトンでもないエリアがあった。そこを語れるほど潜った訳ではないが、語ってしまおうと思えるほどのインパクトがあった。

エントリーすると直ぐにツバメウオみたいな魚が集団でやってきた。当時、Dive&Dive'sのメインガイドをやっていた小川 晃がスレートに「ゼブラバットフィッシュ」と書いた。僕はすかさず「はぁあ?」と言う顔を向けた。すると、予定調和のように「成魚」と書き足した。あの手の魚は、興味を惹かれるのは、幼魚の時だけなのだと悟った瞬間であった。

初めから減圧を予定していたダイビングだったので、減圧用のタンクを水深10mくらいの場所に置いた。ルビロマクラタス、シグナルフィッシュSP.、コウリンハナダイ、スジクロ、アケボノ、数種のサンゴアマダイそしてフトモイ...、そのハナダイを底にして浮上に取り掛かると、また逆の順番で見てゆく。しかも、それにプラスアルファで、ピグミーシーホースやゴーストパイプフィッシュも撮影している。

これだけの垂涎の魚が並ぶ中、このダイビングで一番印象に残ったのは、シグナルフィッシュSP.であった。この時、初めにガイドの晃が見せてくれたのは、不運にもメスであった。水深30m後半でこの魚を見せられて「おぉっ!シグナルSP.のメスぢゃん!」と感動できるダイバーは少ないと思う。当然僕はこの時、多数派に属した。

「この水深で...ヒレフリサンカクハゼかぁああああ!」(怒)

この怒濤の感情は、同じ経験をしたか、あるいは明確にこの状況を思い浮かべられる人としか、分かち合えないコアな面白さが存在しているが、深く考えずに受け流して欲しい。その後、オスの存在を認めて、先程のメスの価値観がガゼン!高くなった。この水深での攻防が一番面白かったのかも知れない。


鉄
鉄 多加志

1965年生まれ
清水出身

生まれ育った環境が、都市部?の港湾地域に近く、マッドな環境には滅法強く、泥地に生息する生物を中心に指標軸が組み立てられている(笑)この業界では、数少ない芸術系の大学出身で写真やビデオによって、生物の同定や生態観察を行う。

通称「視界不良の魔術師」
静岡・三保

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