ガイドのつぶやき 海辺のエッセイ 豪海倶楽部  

第九話 未開の地 未知の青(中編)

このスンバワの話しは、以前書いていた「マッドダイバーズ」の中にも登場し、旅行ではなくポイント開発として携わっていた。

なので、運用のし易いポイントを数多く求められていた。もちろん、バリエーションも大事だけど、季節や風向き、潮汐流の影響や深度、ダイバーの経験レベルに応じた細分化が必要であった。

そして何より大事なのが「手つかずの」の触込みに偽りのない場所が求められた。バリでトランジットステイし、ロンボクを経由して遥々日本からのゲストを迎えるのだから、見た事もないような「自然」が用意されていなければならない。

単に「はい!どうぞ!!」的な自然ではなく、演出された、人が人として感じる自然でなければならない。考えれば考えるほどに難しい。初日の小手調べは終わった。ローカルのガイドとキャプテンがリサーチの間にスピアと釣りで上げた魚をクーラーに入れて港に戻った。

今となっては恥ずかしい話しだけど、この時はこの魚は全て宿にもって帰ってディナーとして調理されるものだと思っていた。それにしては、随分と量があるので、賄いのスタッフが分けるのだと思っていた。ところが、桟橋に着くなりクーラーの魚は、1ピキのハタとジャックフィッシュを残して、全てここの家族のものとなった。自分が捕った獲物ではないけど、ちょっとだけ憮然としてしまった。まぁ、これは現地ルールを知らなかったことと、驕りがもたらした上から目線に他ならなかった。あっても、食べ切れない魚を欲しがるのは、先進国の愚かさなのだなぁ?と、悟った一幕であった。

このリサーチには、わざわざバリから腕利きのコックを連れてきたらしく、現地の料理の味だけでなく、日本的な料理に関しても申し分がなかった。この時、サーフサファリの話しを聞いた事を思い出した。ガイドとコックを連れて、良い波の立つ場所を探してキャンプを張りながら、放浪するというものだった。波の立たない日には、日長一日海の見える場所で禅を組み、波が立てば貪るようにライディングを繰り返す...。

そこまで解脱したものではないが、近いものを感じながら、潜った海とトレースした風景を反芻して、ベストのガイドを構築しては崩し、その繰り返しをしながら眠りについた。


鉄
鉄 多加志

1965年生まれ
清水出身

生まれ育った環境が、都市部?の港湾地域に近く、マッドな環境には滅法強く、泥地に生息する生物を中心に指標軸が組み立てられている(笑)この業界では、数少ない芸術系の大学出身で写真やビデオによって、生物の同定や生態観察を行う。

通称「視界不良の魔術師」
静岡・三保

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