甲殻類のゾエア幼生
青海島に来てから、はや1ヶ月。来たときはダメラマンだったが、海中にただよう小さな生物にピントを合わせるためには、やたら力がいる。おまけに大型の水中ライトをつけたり、透明な生物をかっこよく撮影するために、アームを長くのばして、バックライト用のライトをつけたりしたら、カメラの水中重量は増すばかりで、ますます力がいる。
一瞬目をはなすと、被写体は消えるし、水深がかわって体が重くなっても、浮力調整するために何かをすると、だいたいが見失う。そういうわけで、必死で足を動かしながら、チビ被写体を撮影する姿は、ダイビングはじめたばかりの人よりひどい。なんせ、たて泳ぎばかりだ。中村こうじ氏いわく、水中ブートキャンプ。
おまけに、こうじ氏、阿部氏などとみんなで、おしあい、へしあい。ストロボアームやライトが絡まることもある。水中写真は格闘技だ。まわりの人間よりも、この小さな相手を撮るのが、たいへん。
びんびん動き回る5mmの被写体なんて、いままでろくに撮ろうとしなかったもんな〜
とにかく全身の力を使って、撮影をつずけていたら、今度は右の胸筋がいかれた。ダメラマン→ボロカメラマンだ。は〜じじいは辛いぜ。
さて1日休んだ後、午前の1本だけでも、力いれないで撮影してみようと、イノンのビッグフロートアームをつけて軽量化し、皆に手伝ってもらって潜水。やれやれ、、要看護ダイバーは海中をゆらゆら進む。浮遊系オヤジである。登場するのは、もう撮影したことあるヤツばかり。普段なら再撮影でもがばがばいくが、やっぱ気力が足りずに、数枚ぐらいしか撮れない。
あがり際、神の目,シーアゲインのニコラス笹川が、異様なものを見つけてくれた。天は努力するボロカメラマンを見捨てなかった。それが今月の写真。甲殻類のゾエア幼生である。幅1cmぐらいだろうか?大きいが細い、前後左右に体をふって泳ぎ回る、細い被写体に苦労したが、この時ばかりは痛みを忘れた。笹川さんも初めて見るタイプだという。
先にかえった、こうじ氏、阿部ちゃんに、さっそくイヤミで画像を送信したのだ。
すでに妄想の世界。
世界中どこでも見る丸い淡いピンクの5mmくらいのやつは撮影してみると、もしかしたらウリクラゲ系?なんて感じだったが、見た目は丸いので、地球となずけた。またまた5mmくらいの謎の物体がながれていた。卵?背景を暗くしたら、立体感がなくなったのか、透明だからだと思うけど、、フォトショップでがんがん大きくすると、中で分裂?M69青雲?とかいう感じである。ニュートンで見る感じ。
実際浮遊している、奇妙奇天烈な生物達を撮影していると、どこかで見たことがあるな〜と感じる。それは、エイリアンだったり、アビスに登場していたり、アバターだったりもともとSF好きの僕だから、たまらない。なんかここで撮影した、すべての写真があたりまえすぎるけど、宇宙を感じれるような写真をめざしている。本ができるくらいたまった。クラゲなんて今まで数十年撮影してきたけど、今までと違う感じで撮影している。
誰が撮っても、きれいに正確にうつしてくれるデジタルの世界で、1番必要なのは妄想かもしれない。1冊の本の背景に1本の言葉にならない思いや、思い込みがないとただの寄せ集めになってしまうかもしれないし。一人よがりになるか、人に何か特別なものを感じてもらえるかのせとぎわかね。
僕はもう完全に宇宙旅行の気分である。
" 甲殻類のゾエア幼生 " へのコメント
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スナイパー: 2012年6月14日 12:34 PM
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ゆうすけ: 2012年6月14日 5:40 PM
スゴイッテ、スナイパーさんの写真、よくとれてるじゃん! 来年もまたあいましょう。今年は46日間で、燃え尽きました。ふだん撮らないような被写体が多いし、集中力が普通以上にいりますもんね〜
同時に自分の,体力,気力,集中力、特に視力の衰えを正直感じさせられました。でもこりずにやるぜ!
吉野 雄輔
1954年生まれ
東京出身
海と海の生物すべてを愛する写真家。
大学卒業後、アジア、南太平洋、南北アメリカ、カリブ海、インド洋など世界の海を放浪、1982年にフリーの海洋写真家として活動を開始。世界80か国ほどの海を取材、《吉野雄輔フォトオフィス》を主宰。
2009年から日本全国をキャンピングカーの旅をスタート、1年の半分以上は海に潜って撮影している。
吉野 雄輔/photojournalist:
happypai.wix.com/kaitei
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すごい、こんな写真見せられたら、再チャレンジしに行きたくなりますね。
よく分からないものでも、撮ってみると面白い生き物(?)だったり、肉眼やファインダー越しでは分からなかった事が分かったり、青海島の浮遊系はたまりませんね。
来年もお待ちしております。