ガイドのつぶやき 海辺のエッセイ 豪海倶楽部  

子供の時に見た夢

昔、多分絵本で読んだのでしょう。

ある国に、海に魅せられ、毎日海に潜っている美しい若者がいた。彼は、まるでサカナのようにキラキラと輝く海の中を自由に泳ぎまわる。周囲の村人達は、海にばかり出掛けていると、そのうち海の女神に気に入られ、いつか陸上に帰ってこれなくなると、彼を引き止めた。しかし、そんな忠告は彼の耳には入らない。彼は海のとりこになっていたのだ。ところがある日、彼はとてつもなく巨大な、しかしその肉肌は繊細で色美しいシャコガイに触れてしまう。その瞬間、シャコガイは貝を閉じ、彼は体の一部を挟まれてしまう。もがけばもがく程、シャコガイは一層強くその口を閉じ、逃れることはできない。彼は、ついには息をすることができなくなり、海から帰ることができなくなってしまったのだ。村人達は「やっぱり・・・」と溜息をつき、若者が海の女神に連れ去られてしまったのだと信じ、一層海を恐れるようになった。

前後のストーリーは忘れてしまいました。でも、海の中で身動きすることができなくなる恐怖は子供心の胸に焼き付き、長い間、まるで食虫植物のようなお化け貝がいるのだと信じていました。しかし、大人になるにつれ、そんな巨大なシャコガイなんて、巨大なバケダコや人魚と同じように、おとぎ話の中だけの生き物だと思うようになったのです。

だから、ダイビングを始めて、大きなシャコガイの仲間を初めて見た時は本当にびっくりしたし、やっぱりちょっと恐いと思いました。これに触ると危ない!!って感じ。直感的にその場所から、逃げ出したい気分でした。

幸か不幸か、そんな大きなものは八丈では見たことがありません。ところが、小さいながら、美しいシャコガイの仲間が最近あちこちで見られるんです。小さいから恐くないもん!と思いながら、ちょっと指示棒でツンツン。貝は少し殻を動かして、その口を広げたり狭くしたりするけど、ぴっちり閉じてしまうことは無さそう。だって、お肉が貝の外側にまで溢れ出したままなんだもん。だからと言って、指で触る気はしない。勇気を出して、顔を近づけてじーっと見ていてビックリ。なんとそのお肉の上で生活しているハゼがいる! この子達、貝に飲み込まれちゃったりしないの!?と心配したのですが、写真を撮っている間、皆自由に貝の中を飛び跳ねていました。

貝とハゼ。お互い協力し合って生きているのかしら? 海の中って本当に不思議がいっぱい。とりこになって、帰れなくならないように、気をつけなくっちゃ。


水谷
水谷 知世

昭和40年代生まれ
兵庫県出身

一見、負けず嫌いで男勝りというイメージだが、実は繊細な女性らしい一面を持つ、頭の回転はレグルス一番!!の頼もしい存在である。(レグルス親方・談)

伊豆諸島・八丈島

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