ガイドのつぶやき 海辺のエッセイ 豪海倶楽部  

夏休みの自由研究(1)

子供の頃、いつも頭を悩ませていた夏休みの宿題。中でも「自由研究」は苦手で、何をやったのか全然記憶にありません。適当に朝顔やおたまじゃくしを育ててお茶を濁していたのではないかという気がします。それを今さら…という感じですが、今だったら、こんなの出せるんだけどな。
題して「クマノミ・イスとりゲーム」

ゲームをしている場所は、レグルスの目の前にある湾内のポイントです。元々クマノミの数が少ないポイントなのですが、今の時期、小さなイソギンチャクに幼魚が流れ着きます。その中で、今も熱い戦いが繰り広げられているのが、ここ。

半径30cm程度の小さなイソギンチャク。中央にクマノミの幼魚が見えますね。可愛い!と、大勢のダイバーが喜んで写真を撮ったりしています。この一番大きいのを「大ちゃん」ということにしておきましょう。大ちゃんは、いつも真ん中辺りを泳いでいて、遠くからでもよく目立ちます。さて、写真をよく見てください。このイソギンチャクに住んでいるのは、大ちゃんだけではありません。左下すみの方に、小さなクマノミが2匹いるのです。大きいほうを「太郎くん」、小さいほうを「次郎くん」としておきます。最初見つけた時は、この3匹でした。ところが翌日には2匹増え、この写真を撮った時には5匹でした。これを「キキ」と「ララ」。キキとララは、右上の隅っこのイソギンチャクの裏に隠れているので、写真には写りません。 この時の状況を図解すると、こんな感じになります。

さて、この5匹。ずっと観察していると、とても仲が悪いことに気が付きます。皆がそれぞれ自分の陣地を持っていて、ちょっとでも他のが入ってくると猛烈に怒るのです。特に、太郎くんと次郎くんの仲は最悪です。何もない状態の時は、太郎くんはイソギンチャクから離れて、左すみの砂地の上を泳いでいます。

ね? 写真を見ても、太郎くんの背景にイソギンチャクが写ってない。

クマノミにとって、これはとっても危険なはず。だって、彼らにとって、イソギンチャクしか身を守る術が無いんですもん。では、なぜ太郎くんはイソギンチャクから離れた場所にいるのか? それは次郎くんが意地悪だからです。

左が太郎くん、右が次郎くん。次郎くんは、太郎くんよりも体が小さいのですが、かなり気性が激しいようです。しかもずる賢い。普段はイソギンチャクの縁にいて、大ちゃんからの攻撃を受けた時にはすぐに裏側へ逃げられる体制を取っています。そうしながら、太郎くんが少しでもイソギンチャクに近づこうものなら、すぐに追い払いに出てくるのです。見ている間、なんと噛み付いたりもしていたんですよ!

こんなに仲の悪い二人ですが、ダイバーが近づくと慌てて二人してイソギンチャクの中の方へ逃げ込んでいきます。すると今度は二人とも大ちゃんからの攻撃を受けることになるのです。

私は、このままだと、太郎くんはそのうち死んでしまうだろうなあと思っていました。そして、案外次郎くんが大ちゃんのこともやっつけちゃう日が来るのではないかと思っていました。

しかし、クマノミの世界はそんなに単純ではなかったようです。

一方、キキとララも、決して仲良しではありませんでした。二人ともやはり時々喧嘩をしていますが、どちらも行動範囲が狭いので、あまり衝突しないようです。何よりも二人ともイソギンチャクの裏に潜んでいるという感じなので、大ちゃんからもあまり狙われません。時々、様子をのぞきに外へ出てくるのですが、その時にはやっぱり攻撃されてしまいます。

キキとララは、このまま大ちゃんの攻撃から逃れて、うまく生き延びていくことができるのでしょうか? 意外と、このまま目立たず、攻撃もせず、守りに徹するのが長生きの秘訣かも? と思ったのですが、キキとララは必ずしも守りに徹しているわけではありませんでした。実はこの2人にとって、何とも扱いにくい、目障りな敵がもう1匹いたのです。それは…

こうやって見ると、クマノミとツユベラってそっくり! キキとララも、もしかしたら同種の敵だと勘違いしていたかも知れません。一生懸命追い払おうとするのですが、相手はのんびり食べ続けています。クマノミの威嚇には全く動ぜず、のんびり、のんびり…。キキとララは必死なのですが、追い払おうと夢中になって外へ出てきてしまうと、今度は自分が大ちゃんにやられてしまうのです。

さあ、小さなイソギンチャクの場所取り合戦。今度どんな物語が展開されるでしょう?

実はこの原稿を書いている最中にも、ドラマは続いているのです。
今回だけでは、とても書ききれないので、つづきはまた来月!!
お楽しみに〜!!


水谷
水谷 知世

昭和40年代生まれ
兵庫県出身

一見、負けず嫌いで男勝りというイメージだが、実は繊細な女性らしい一面を持つ、頭の回転はレグルス一番!!の頼もしい存在である。(レグルス親方・談)

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