ガイドのつぶやき 海辺のエッセイ 豪海倶楽部  

自然の力

今年はこいつの話ばっかり書いてます。

シルバーウィークに続き、10月の連休前にも、すごい奴がきました。

テレビで、あちこちの様子を映し出していました、被害に遭われた方はいらっしゃいませんでしたでしょうか? 奴がくる1週間くらい前の予報では、八丈島を直撃することになっていました。こんなの来ちゃった日にゃあ、あたし達どうしたら良いのだろう?? 島の人たちと、頻繁に話をしていました。通常、暴風雨圏内に入りそうな予報が出た場合、外に置いてある植木鉢やゴミ箱、テラスの机や椅子、干してある器材類はもちろん、犬も室内に片付けます。雨戸は全て閉め、雨戸のない窓には板をはって閂(かんぬき)をかけ、車は家の壁際に駐車してバリケードの代わりにします。それでも足りないくらい強い奴が来る場合には、家ごと縄をかけて屋根が飛ばないようにするのだそうです。それはまだ見たことがないんですけど。今回はそれくらいしないとダメかも知れないという話しでした。

ところが、刻々と目玉が接近してくるにつれ、予報進路は北よりになり、本州上陸の可能性!ということで急にテレビのニュース番組が活気付いてきました。そして、最後に八丈島は暴風雨圏内にさえ入らず、一時的に雨風が強まる程度で済みそうだ、という話になったのです。ただ、海だけは何日か前から大しけの状態になっていたので、連休前からいらっしゃるゲストからはキャンセルを頂きましたが、店舗が吹き飛ばされる心配からは逃れることができました。

実際、本州を通過中、私たちは閑古鳥が啼く店内で、テレビを見ながらのんびり過ごしておりました。関心事はただ一つ。連休開始と同時に海況が落ち着いて、どこかで潜れるようになるかどうか。まさか、自分たちがいる島の反対側が、こんなことになっているとは夢にも思わず。

海況云々の前に、ポイントが壊れてしまうとは…。

これはナズマドの駐車場。高波で石垣とコンクリートが剥がされ、ばっくりと大穴が。エントリー口のスロープもガタガタになってしまいました。

八重根の方は、もっとひどい。

東海汽船の乗り場から八重根のポイントまで、道路の上は大きな岩がごろごろ。4畳半ほどのコンクリートの床板も散乱し、それらがぶつかったのか、金属製の柵やガードレールがぐにゃぐにゃ。街路樹のソテツも根こそぎ抜けて転がっていました。

これら、全てが波の力によるものです。付近には民家も多数あり、目の前まで岩が飛んできているんですから、さぞかし怖かったでしょうね。

それでも海況が回復すると同時に、何とかダイビングもできるようになったのですが、海の中は瓦礫の山。割れたテトラポットやコンクリートブロック、街灯などが水底に散乱し、根は削り落ちて、地形が変わってしまうほど。岩は全てひっくり返り、砂地は掘り起こされ、サンゴは壊滅状態。

でも、もっと驚くことが。

こんなに破壊力のあるウネリの中で、生き残った魚たちがいるんです。

ただ生き残ってるってだけじゃなく、新しく転がってきたテトラポットにちゃっかり卵を産み付けている輩も。

その他、特にクマノミの生存率が高かったように思います。

種によって生存率が異なるというのは興味深いですね。ミギマキよりもタカノハダイ。一体どうやって荒波を乗り越えたのでしょうか?

そして、なぜか台風前よりも増えた回遊魚たち。

瓦礫の中を縦横無尽に集団暴走。

ナズマドは、日に日に透明度が上がり、回遊魚に当たると、まるで自分が巨大な生簀(いけす)の中に入った気分になれます。

破壊力もすさまじいけど、回復力にも驚かされる自然の力。

この原稿を書いている間にも、瓦礫の山は、見る見る藻に覆われてきています。


水谷
水谷 知世

昭和40年代生まれ
兵庫県出身

一見、負けず嫌いで男勝りというイメージだが、実は繊細な女性らしい一面を持つ、頭の回転はレグルス一番!!の頼もしい存在である。(レグルス親方・談)

伊豆諸島・八丈島

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