マッドな情熱 豪海倶楽部  

第一章 何でドロに潜るの?

「ガイドのつぶやき」でマッドダイバーズを書いている鉄 多加志です。いきなり僕の素性(バックグラウンド)を知らずに、あの文章に出くわしてしまった方、ゴメンなさい。さぞ驚いたか、拒否した事でしょうね?心中お察し申し上げます(苦笑)。

さて、僕が住んでいる静岡市の三保に対する思いと言うのは、個人的な感覚(感情?)の部分に深く立脚しております。生まれ育った地元の海を様々な角度から見る事で、メジャ〜に一泡吹かせる事ができるんじゃないか? そんなツマらん発想でスタートしたコダワリでしたが、いつしか立身出世の願望はLife Workと変化していったのです。もちろん、その一部はRice Workですが...。現在取組んでいる(入り込んだ長いトンネル?)テーマは、パラダイスに対するパラドクスとしての海。つまり人間と密接な位置関係を持っている海なのです。あまり難しい話だと思わないで欲しいのですが、現在の都市エリアに隣接する海は、みんなが“綺麗じゃない”と言う認識に蓋をしている状態なのだと思います。素直に考えれば、大きな港の水は汚いですよね? しかし、汚いと正直に言う人は少ないはずです。何故か、大規模な港湾やゴミ捨て場、最終処分場などは「汚くて当然!」と思っているのではないでしょうか? これを不思議に感じていない事自体が問題なのですが、生まれた時から汚い海を「当然!」と認識していて何が悪い!?と逆ギレされそうです?(苦笑)

以前、公民館事業の一環で数年間、高齢者教室で海のスライドショウをやっていた事があります。いろいろと試行錯誤しながら、少しでも楽しい時間を一緒に過ごしたいと考えました。相手が「お年寄り」だけに、難しい話しや横文字は御法度!相手は子供と同じですから、飽きればオシャベリはするし、寝ちゃいますよ。っと担当者から再三再四、注意をされました。ダイバーじゃない人を飽きさせないための工夫...。理解の難しいテクニカルタームを使わない話し方...。笑いのツボは?毎回、胃が痛くなるほどプレッシャーが襲ってきました(苦笑)。ビデオを使ったり、沖縄や海外のスライドをこれ見よがしに上映したり...。しかし、こちらの思いは空回りするばかりで、反応を得る事とは程遠く毎回すきま風が吹き抜けるように感じていました。

ある時、自分のやりたいようにやってみようと、三保のスライドだけを使って講演をしてみたのです。かなり辛辣な表現も使いました。「冥土の土産に地元の海の中を見せてあげるよ」とかね?(爆)生物の説明の時も、ミノカサゴを見せながら「この美空ひばりチックな魚は・・・」、オキゴンベイを見せ「名前があるのにゴンベイとはこれ如何に」などと。ほとんどバナナの叩き売り状態で、三保の生物達を紹介してみたのです。結果は上々!今まで話が終わるとバラバラと席を立って、汐が引くようにいなくなっていたお年寄り達がなかなか帰らないのです。魚について話しているお婆ちゃん、釣ったことのある魚について自慢をしているお爺ちゃん。初めての光景でした。僕が片付けをしていると、割りと若め?(とは言っても自分の親よりも年輩の)のお婆ちゃん達が、講演の内容の反論にやってきた(笑)。自分達が若かりし頃の透き通った海や川を若輩者の僕に説くためのようでした。「あんたちゃ〜知らないだろうけんど、わたしら若いころは、何も潜んなくても魚は見えただよ〜」よほど講演中に言った「今さら潜るのは無理だろうから、撮った写真でお楽しみ下さい」が利いたのだろう。ちょっと刺激が強過ぎたかな?(苦笑)講演が終わった後に、こんな有意義な会話ができるなんて考えてもみなかった。さすが伊達や飾りで年をとっている訳じゃ〜ないね?知恵袋だな?などと少し悪態をつきながらも、会話は弾んだのです。口々に言っていたのは、孫にも見せたいね〜?だった。これは、上から見えなくなった海中を見せてくれる機会が、この世に存在している事を知ったに他ならない。是非ともご要望に応えたいところだが、ある時期から講演の依頼はこない。

講演の反応に味をしめた自分にとって、待っているのは性分に合わないので、少ないながらも年に1度は講演会を開くことにした。これが「三保水中生物研究会」の発足理由なのかも知れない。少なくとも地元のお年寄りは、綺麗だった海を知っているので、今の海の色には不満があるようだ。しかし知らない世代にとっては疑問すら感じないのかも知れない。これは現状に対して認識を持てない者が、変化を求めるはずがないと考えらるからです。一度、綺麗じゃないものは綺麗じゃないとリセットしてから考えないと、いつまで経っても私達に一番近い海は好転することはないでしょう。だからと言って、脅すように「汚いのは誰のせい?」と問いかけるのは逆効果だし、「汚い海を何とかしよう」と呼び掛けたところで、夢も希望もない。だから、一般的(勝手な想像ですが)には一見死んだように見える海の生命についてコダわっているのです。東京湾や大阪港にイキなり潜ることは出来ないけれど、三保の海だったら...。三保がこの認識の扉となって欲しいと言う願望が、僕を泥の表現者として駆り立てるのかもしれません。(^^ゞ


1. 2.3.4.
鉄
鉄 多加志

1965年生まれ
清水出身

生まれ育った環境が、都市部?の港湾地域に近く、マッドな環境には滅法強く、泥地に生息する生物を中心に指標軸が組み立てられている(笑)この業界では、数少ない芸術系の大学出身で写真やビデオによって、生物の同定や生態観察を行う。

通称「視界不良の魔術師」
静岡・三保

ダイバーズ・プロ
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