マッドな情熱 豪海倶楽部  

第四章 ダイバーの分岐点

人間は感情の動物であり、知の動物である。間尺に合わなく腹をたてることもあれば、晴天の霹靂に一喜一憂もする。「何故海が好きなのか?」と言う問いに、いろいろな解釈を付け加える事ができるが、やはりリターンの大きさや懐の深さなのではないだろうか?

陸上の生活を余儀なくされている日常では、味わう事のできない「知的好奇心」がそこに存在しているから・・・。僕は、最近そう感じる。これは、地元の海に潜り続ける言い訳にも聞こえるかも知れないが、常に自分の価値観の殻をハンマーで叩いてくれる、この海が好きだ。しかし、最終的に殻を破るのは自分であり、ダイバーとして海の魅力にとりつかれている、あなた自身なのである。ものごとを一定の尺度の中で見ることは、間違いなく自分自身を成長させ、次のステップへ進む手続きをスムースにさせる手法である。

ある時、その尺度がmmだった事に気が付きcmに変えてみる、次はmだ。kmの段階に達した時、これから進む道の長さに尻込みしたり、本当にこの方向で合っているのか?と不安になったりする。これが、いわゆるダイバーの経験本数なのである。経験の伴わない知識は、いくら声高らかに語ったところで、しょせんは自分の脳細胞から脱却しないスモールワールドである。自分と言うテリトリー、ホームグラウンドとしてのフィールド。ガイドの本領は、多角的に自分のフィールドを評価し、一人でも多くの人にホームに対する理解を促す作業をくり返す行為なのではないだろうか?

これは、強要ではなく共用であり、教養を伴ったものでなければならない。単なる言葉遊びの延長線上に、実は限り無い世界が存在しているのではないか?と考える。必ずしも濁った海に潜ると面白い!と言っているのではなく、そこには多くの事実と好奇が存在しているという持論を述べているに過ぎない。濁りに覆い隠された世界には、ハッキリと見える世界にはないものが、実は鮮明な輪郭を伴って存在している。何故?濁っているのか、その濁りは何に影響を与えているのか?人間の犯し続けてきた発展は、水中に生息する生物を通して、あるいは絶滅によって供給される事を拒むことによって、徐々にその声を大きなものにしている。その声に耳を傾けながら、ダイビングをしてみると、また違う世界観が誕生する。

ダイバーは、一番の海の理解者でありたい...と言うコピーを聞いた事がある。しかし、直接的に海中へ訪れることのできる唯一の人類であるダイバーの持つ、直接的な海へのリスクも忘れてはならない。時として、一番の海の破壊者となりうる事も。真摯な気持ちを持ち続ける事が海を楽しみ、未来永劫楽める「場」として門を開いてくれるように、ピュアな気持ちでドロンゴダイビングを続けていきたい。ドロを汚いと思わなかったあの頃に戻って。

さて、四話に渡って綴りました「マッドな情熱」も、これで最終話となりました。このお話しを通して、またどこかの機会に伝えたいです。

次回からこのコーナーは、ここんとこ「マッド」にハマって三保に訪れるようになってしまった川奈の八木くんが、カキコしますんでお楽しみに。


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鉄
鉄 多加志

1965年生まれ
清水出身

生まれ育った環境が、都市部?の港湾地域に近く、マッドな環境には滅法強く、泥地に生息する生物を中心に指標軸が組み立てられている(笑)この業界では、数少ない芸術系の大学出身で写真やビデオによって、生物の同定や生態観察を行う。

通称「視界不良の魔術師」
静岡・三保

ダイバーズ・プロ
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