八ック謎ナゾ生命体 豪海倶楽部  

思い出せない小説

誰もいない小川のほとりに、1人たたずむ。川の水は水底にある大小の岩を避けて、時に勢いよく、時に淀みながら、絶えず流れている。その水面を見ているうちに、小岩の上で動く生き物を見つけ、手元にあった小石を投げてみる。ただ、ちょっと脅かすだけのつもりだったのに、その小石は岩の上にいた山椒魚に命中してしまう。思いがけず、山椒魚を殺してしまった。そんなつもりじゃなかったのに。

文章は違うけど、こんな内容から始まる小説、どなたか読んだことありませんか?

最近のミステリーや恋愛小説などではなく、近代日本文学の有名な著者の作品だったと思うのですが。

この小説の中で、山椒魚を殺してしまった主人公は少なからず動揺するのですが、子供の頃、それを読んでいた私が同じように動揺してしまいました。そして、主人公と同じくらい落ち込んでしまった私は、多分その先を読まなかったんじゃないかと思います。その後の話がどうなったのか、さっぱり覚えていません。こんなに冒頭の話が強く印象に残っているのに、著者も題名も思い出せないのです。

話は変わりますが、八丈島には川が流れています。

水の確保に苦労する島々が多い中で、島内に川が流れているというのは非常に重要です。しかも、その水はところどころで伏流水となり、豊富な地下水として蓄えられます。おかげで、八丈ではめったなことでは水不足になりません。逆に、国内で有数の多雨の島でありながら、洪水になる心配もありません。

この川に、汽水域の魚はいないんだろうか?

何年も前にも、そんなことを考えて川を探索に行ったことがあるそうなんですが、今年の夏も、それ程真剣にではなく、ぶらっと川を見に行ってみました。

見つけたのは、岩魚を数匹。
これは釣り人が持ち込んだものとのこと。
そして、するするっと水の中を動く、黒い生き物。
親方が、喜んで捕まえてしまいました。

手に乗っているのはイモリでした。

私が、それを見て「イモリだ」とわかったわけではありません。親方がそう教えてくれたのです。私の頭に浮かんだのは、山椒魚が死んでしまった小説のことでした。長い間忘れていた、小説の冒頭文。この生き物が、投げた石に当たって死んでしまったのだろうか?と。長い間仕舞い込んで忘れていた嫌な出来事を思い出してしまった気分でした。

そんな私の気持ちは全く知らず、親方は嬉しそうに続けます。

「ほら、山椒魚と違ってね、イモリはお腹が赤いんだよ!!」

山椒魚じゃないんだ。
だから大丈夫。
真っ赤なお腹を見て、妙にほっとしたのでした。

あぁぁぁ、でも、あの小説。何だったのかなぁあ??


水谷
水谷 知世

昭和40年代生まれ
兵庫県出身

一見、負けず嫌いで男勝りというイメージだが、実は繊細な女性らしい一面を持つ、頭の回転はレグルス一番!!の頼もしい存在である。(レグルス親方・談)

伊豆諸島・八丈島

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