八ック謎ナゾ生命体 豪海倶楽部  

島の花、よその花

八丈島に来てまだ間もない頃のこと。

散歩か何かしている途中で、店かどこかのおばちゃんに話しかけられ、ちょっと世間話なんぞをしておりました。そこへ別のおばちゃんがやってきました。私が普段着で島の人と気さくに話をしていたのを不思議に思ったらしく、

「あんた、島の人?」

と尋ねてきました。

私はその時、「島の人=島に住んでいる人=観光客ではない」と理解していたので、

「そうです。」

と答えました。

すると、驚いたことに

「ふうん。あんた、お父さんの名前は?」

と聞くのです。なんでいきなり、私じゃなくて、私の父親の名を聞くのよ!? と思ったのですが、次の瞬間、気が付きました。

「すみません、今は島に住んでいますけど、まだ来て2年くらいしか経ってないんです。」

と言うと、おばちゃんは、あぁ、なんだ、やっぱりね、と納得顔をしていました。

今でも、温泉などでおばちゃん達の話をぬすみ聞きしていると、

「あんた、坂上(さかうえ)に住んでる○○ちゃんって知ってる?」
「いや、坂上だったら、××ちゃんなら知ってるけど。」
「あぁ、その××ちゃんのお母さんが、○○ちゃんとこのお母さんの姉さんと同窓でさ。確か、△△さんの嫁さんの従兄弟のはずだよ。」
「あぁ、じゃあ、●●ちゃんとも同窓かねぇ。」

という会話をよく耳にします。結局○○ちゃんがどうしたのかという話の前に、親戚だの同級生だのをたどって、自分が知っている人間と結び付けないと落ち着かないようです。

離島だけでなく、地理的に閉鎖された場所の村や町は、だいたい似たようなものなんでしょうか? 多分、八丈島は、離島の中では比較的人の出入りが激しく、島外の人と接する機会が多い方だろうと思います。昔から三宅、青ヶ島、小笠原とは往来が多かったようですし、江戸時代には「流人」という名目で、多くの人が島へ移住しにやってきました。今では、羽田まで飛行機で1時間もかかりませんから、下手な東京近郊よりもずっと都心に近く、人の出入りは激しくなる一方です。だんだん、どんなに頑張っても自分との関係が見つけ出せない「新島民」が増えていき、本来の「島の人」という定義も薄れていくはず。一体いつまでこだわり続けられるかしら?と、ちょっと楽しんで観察しています。

でも、こんなことは人間だけでなく、動物や植物の世界も同じ。

いわゆる島の外来種には、イタチのように意図的に人間に持ち込まれたものや、いつの間にか飛来してきたカラス、島に運ばれてきた園芸用の植物や農作物にくっついてきた様々な昆虫などがいます。

植物の場合、元々は外から持ち込まれたものが島内で自然に繁殖し、雑草と同じように道端に自生し、花を咲かせているものが多くあります。もうすっかり島に馴染んで、毎年普通に見られるようになった植物のことを、帰化植物と呼んでいます。知らない人間から見れば、どれが在来種、どれが帰化植物、どれが園芸品種…などは、なかなかわかりません。

道路沿いで咲いているハイビスカスを見て、

「あぁ、八丈島へ来たって感じがするわねぇ。」

と喜んでいる観光客は少なくありませんが、これは園芸品種で、元々八丈島には無かったものだそうです。

在来種と帰化植物で、同じ花が島の中でうまく住み分けしているものもあります。

アザミとハチジョウアザミ。

花はそっくりで、花だけを見ていると、どっちがどっちだかわかりません。でも、皆さんが見慣れているアザミは、葉がトゲトゲしていて、摘み取ろうとしても痛くて触れないといった感じではありませんか? つぼみの周りもがっちりとトゲに守られています。八丈では、どちらかと言うと海岸付近に多いみたい。

一方、ハチジョウアザミは、葉が細長くトゲトゲしていません。
海岸の近くよりも少し内側の道端に、雑草と一緒に生い茂っています。

島には「島の人」と「よその人」と結婚して新しい家庭を築いている人がたくさんいますが、それでも「お父さんはよその人」、「お母さんは島の人」と言われ方をしたりします。でも、アザミとハチジョウアザミは、もっとはっきり分かれていて、交配することさえ無さそうです。花はそっくりでも、間違って受粉することは無いようです。


水谷
水谷 知世

昭和40年代生まれ
兵庫県出身

一見、負けず嫌いで男勝りというイメージだが、実は繊細な女性らしい一面を持つ、頭の回転はレグルス一番!!の頼もしい存在である。(レグルス親方・談)

伊豆諸島・八丈島

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