南国通信 楽園からのらくがき | 豪海倶楽部 |
チューク(トラック)諸島の人口は約6万人。赤道から北に南北1300Km、東西650Kmに亘る広大な海域に散らばる小さな島々の集まりだ。これらの地域の人たちの生活は、今も殆どが自給自足の生活様式に頼っている。 食生活もまたしかりである。モエン島のローカル市場には、パンの木の葉っぱやタロイモの葉っぱに包(くる)まれた現地食や、そのおかずとなる海産物等が所狭しと並べられている。これは、仕事柄、現地食を作る事が出来ない現地人の為のものだ。グアム行きの空港ロビーは、パンモチやタロイモ、魚などを詰めたダンボールやクーラーボックスで溢れている。これは、グアム・サイパンに出稼ぎなどで移住するチューク人の為の食糧だ。 近年、モエン島を中心に、お米や小麦粉、缶詰や肉などの外国からの食品もかなり普及してきてはいるが、基本的な彼らの食生活は、まだまだ伝統的な食べ物が主流である。パンモチをつくる杵や臼をはじめ、現地食を作るための伝統的な道具や農具、燃料となる薪などがどの家にも無造作に置いてある。 いろんな現地食がある中で、最も重要なものが、パンの実である。日本人で言えばお米に相当するもので、彼らの主食となっている。家の周りや山の中まで、あらゆる所に植えられている。人間の頭程にもなる大きな実で、3月〜8月までほぼ半年間収穫できる。一度植えてしまえば後はほったらかしで、何十年でも沢山の良質の食糧を提供してくれる。全く手の掛からない、彼らにとっては好都合の食糧なのである。季節により収穫が制限されるため、収穫時期になるとあちこちに大きな穴を掘り、このパンの実を保存する。そうして、実が成らなくなった時期に取り出して食べるのである。 こうして彼らは、1年中パンの実を食べている。食感はサツマイモと良く似ている。皮を剥き、芯を刳り貫いて蒸して食べるか、蒸した物を道具を使って潰してモチ状にする。これをパンの木の葉っぱに包んで保存食とし、1週間程かけて食べる。これがパンモチと呼ばれるもので、彼らの最もポピュラーな食べ物である。 土中に保存した物は、取り出して水に溶かしてきれいにし、やはりこれをパンの木の葉っぱに包んで蒸し焼きにして食べる。これはパンモチに対し、古パンモチと呼ばれるもので彼らの最も大事な保存食である。パンモチ、古パンモチは市場の主役でもある。 次に多く食べられているのがタロイモだ。タロイモは湿地帯で栽培される。通常のイモと違い、栽培期間が長く、しかも何年でも(5〜10年)畑の中で放置(保存)できる。下草を刈ったり、水を引いたりの手入れは必要だが、これもまたあまり手の掛からない作物である。パンの実同様、蒸してそのまま食べたり、潰してモチ状にしたものを葉っぱに包んで保存し、食する。パンモチ、古パンモチと並んで、市場の常連である。 バナナには沢山の種類があるが、大別すると、果物として食べるバナナと、食糧として食べるクッキングバナナとに分けられる。食糧バナナは実が大きく、収穫量も多い。煮たものの食感はサツマイモに似ている。熟れた食糧バナナをそのまま煮たり、まだ熟れていない硬いものをすりおろして、タロイモやタピオカなどと混ぜて団子状にして食べる。1株植えておけば次々と株が増えて、季節に関係なくいつでも豊富な食糧を提供してくれる。道端から家の廻り、山の中まで、いたる所に栽培されている。これもまた、なくてはならない市場の顔だ。 日本で食べるタピオカは、白いダンゴ状の粒になっているが、もともとは地下茎で大きな芋である。これもまた、挿し木で簡単に栽培できる。植えて半年も経てば高さ2mほどの木に成長し土中に大きな芋ができる。これを掘って食べるのである。タピオカには、青酸性の毒が含まれている。そのために、皮を剥いた芋は長時間水に晒して毒抜きを行なう。 タピオカは優れた澱粉を大量に含んでおり、この澱粉を使って作ったものが、日本で食べられているタピオカだ。現地では、芋の状態でそのまま煮て食べたり、こねてモチ状にして食べたりする。澱粉を使って作るおやつ的な食べ物もまた、タピオカのポピュラーな食べ方の1つである。他の食べ物が、主食的なものであるのに対して、タピオカはおやつ的な食べ物としてとても人気がある。パーティーや祝い事があるときには必ず出てくる食べ物だ。市場をはじめ、街中のテイクアウトの店には必ず置いてある人気食品である。 これらの現地食を作るには、必ず薪が使われる。そのため、かれらの炊事は今も殆どが戸外でおこなわれている。朝に夕に、島のあちこちではいつも煙がたなびいている。村々からパンモチをつく杵の音がパンパンと乾いた音を響かせている。 クリスマスと新年を迎え、その装いに、彼らのご馳走つくりにと、島中が伝統の色に染まってゆく。 南の島の食生活 末永卓幸 |
末永 卓幸 1949年1月生まれ 長崎県対馬出身 立正大学地理学科卒業後、日本観光専門学校に入学・卒業。在学中は地理教材の収集と趣味を兼ねて日本各地を旅する。1973年、友人と4人でチューク諸島を1ヶ月間旅行する。1978年チューク諸島の自然に魅せられ移住。現地旅行会社を設立。現在に至る。観光、ダイビング、フィッシング、各種取材コーディネート、等。チュークに関しては何でもお任せ!現地法人:『トラックオーシャンサービス』のオーナー。 ミクロネシア・チューク諸島 現地法人 トラックオーシャンサービス P.O.Box 447 MOEN CHUUK STATE F.S.MICRONESIA #96942 Tel/Fax:691-330-3801 www.trukoceanservice.com Suenaga@mail.fm |