ガイドのつぶやき 海辺のエッセイ 豪海倶楽部  

第二話に続く前に

9月の4日、バリの殿塚さんが亡くなりました。

既に、人づてや雑誌、インターネットなどでも、この訃報を耳にした人も多いかも知れません。ここで、殿さんのことを僕が書くなんて、ちょっとお門違いな気もしますが、ガイドのことについて書き始めた今だからこそ、彼のことを書き留めておきたくなりました。

この知らせを受けて、多分この豪海の中で一番悲しみ、絶対に信じたくなかったのは、親分の雄輔さんだと思います。年齢も近く、親友の殿さんを失った無念な気持ちは、僕の数万倍だと思います。涙を筆に浸けたところで、文字にはなりません。つまり悲しみが強い人ほど思いも強く文章にすることは難しいと考えます。だからと言って、雄輔さんの代弁をする訳ではありません。これは、あくまでも僕なりの彼にたいするオマージュです。

殿塚さんとは、ダイビングフェスティバルなどの業界の大きなイベントの際に、会場でお会いして「面白いオッサンだなぁ〜?」と毎回そのユーモアと歯に衣着せぬおおらかなトークに一喜一憂している程度のお付き合いでした。急接近したのは「地球魚類楽会」が設立し、その会合に呼ばれるようになってからでした。この会は、魚類学者を始め、カメラマン、ジャーナリスト、ガイド(ここが一番人数が多かったです)が集まり、自分のフィールドの自慢話に始まって、不明魚に対する考察・ウンチク...それはそれは、鼻血が出るくらい興奮する話が炸裂する場でした。

そんな集まりやパーティなどで話しをするキッカケがつかめたので、大好きな泥底に棲む魚の話しで盛り上がっていました。何年前だったか忘れましたが、僕が唯一出した虎の子の写真集を持ってダイビングフェスティバルの会場をウロウロしていると、殿さんに声を掛けられました。「おぉ〜元気かっ!忙しいぃか?何持ってんだ?」僕は、写真集を見せました。丁寧にページを捲り、離したり角度を変えたりしながら、ゆっくりと鑑賞していました。

あるページで明らかにリアクションが違うのがうかがえました。それまでは、感嘆詞しか口にしなかった殿さんが、質問をしたのです。

「この時は、白黒のフイルムを持って行ったのか?」

はい、正直に答えた。

「被写体、レンズ、そしてフイルム...それが全て合致した、いぃ写真だなぁ〜」

「おまえ、運あるな!?運は大事だぞ!」

その後の感想は、よく覚えていないけど、この写真を彼に褒めてもらった事を、今でも鮮明に覚えている。僕もこんな褒め方をしたい! そして、この人に褒めて欲しいと思われるようなガイドになりたい。そう思える偉大な先輩ガイドでした。ご冥福をお祈りいたします。


鉄
鉄 多加志

1965年生まれ
清水出身

生まれ育った環境が、都市部?の港湾地域に近く、マッドな環境には滅法強く、泥地に生息する生物を中心に指標軸が組み立てられている(笑)この業界では、数少ない芸術系の大学出身で写真やビデオによって、生物の同定や生態観察を行う。

通称「視界不良の魔術師」
静岡・三保

ダイバーズ・プロ
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